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第二十三章・2

 ゆっくりと、たっぷりと。  利実は食事を楽しんだ。  腹が減っては戦ができぬ。  これは、彼の理念の一つだ。 「美味しかった! ね、啓さん。亜希くんが退院できたら、連れてきてあげてよ」 「うん……」  湿った返事に、利実は唇を尖らせた。 「何、その声。辛気臭いなぁ」 「実は、利実くんに頼みがあるんだ」 「それは、さっき聞いたよ。何? 僕にできることなら、何でも……」 「私と、結婚して欲しい」  利実は、耳を疑った。 「はぁ? 何、言ってんの?」  重ねて啓は、彼の前に美しくラッピングされた小箱を出してきた。 「開けてくれ」  眉根を寄せたまま利実がそれをほどくと、中にはダイヤモンドが散りばめられた指輪が輝いている。 「婚約指輪だ。受け取って欲しい」  啓のまなざしは、真剣だった。

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