130 / 146
第二十三章・3
「馬鹿じゃない? 渡す相手、間違ってる!」
利実は、ぐいと指輪を啓に押し返した。
だが、啓はひたすら頭を下げて繰り返すばかりだ。
「頼む。私と、結婚してくれ……!」
さすがの利実も、そんな啓の背後を勘繰り始めた。
(あれほど愛し合ってた亜希くんを、こんな一瞬にして裏切ったりできるはずがない!)
「啓さん。何があったの? 何か、訳ありなんでしょう。話してくれる?」
「そ、それは」
「言わなきゃ、結婚してあげない!」
仕方なく啓は、父に提示された亜希の手術に関する条件を打ち明けた。
「つまり。僕と結婚すれば、亜希くんの手術をしてもいい、ってこと?」
「そうなんだ」
利実は、悲しくなった。
ああ、この人も。
そういえば啓さんも、僕と同じで、家という牢獄に閉じ込められた人だった。
幼い頃から、家長に従うことを最善と教え込まれた人だった。
そんな啓を、ただ責めるのはあまりにも可哀想だった。
ともだちにシェアしよう!