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第二十三章・3

「馬鹿じゃない? 渡す相手、間違ってる!」  利実は、ぐいと指輪を啓に押し返した。  だが、啓はひたすら頭を下げて繰り返すばかりだ。 「頼む。私と、結婚してくれ……!」  さすがの利実も、そんな啓の背後を勘繰り始めた。 (あれほど愛し合ってた亜希くんを、こんな一瞬にして裏切ったりできるはずがない!) 「啓さん。何があったの? 何か、訳ありなんでしょう。話してくれる?」 「そ、それは」 「言わなきゃ、結婚してあげない!」  仕方なく啓は、父に提示された亜希の手術に関する条件を打ち明けた。 「つまり。僕と結婚すれば、亜希くんの手術をしてもいい、ってこと?」 「そうなんだ」  利実は、悲しくなった。  ああ、この人も。  そういえば啓さんも、僕と同じで、家という牢獄に閉じ込められた人だった。  幼い頃から、家長に従うことを最善と教え込まれた人だった。  そんな啓を、ただ責めるのはあまりにも可哀想だった。

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