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第二十三章・4

「ねえ、啓さん。亜希くんって、素敵な子だよね」 「えっ?」 「僕、彼に教えられたこと、たくさんあるよ。啓さんは、どう?」 「どう、って」 「一緒に暮らしてて、亜希くんの生き方は、あなたの目にどう映ってた?」 「それは……」  啓は、亜希を想った。  明るく、素直で、いつも前向きな亜希。  医師を目指し、ひたむきに走る、その姿。  そして何より、心から私を見つめ、愛してくれた人。 「亜希」  啓の目に光が宿り、利実はそれにうなずいた。 「解ったみたいだね。啓さんが、真に話し合わなきゃいけない相手」  そう。  それは、利実ではない。  彼に指輪を渡し、頭を下げている場合ではないのだ。

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