132 / 146
第二十三章・5
啓は、落ち着きを取り戻していた。
焦りが消え、周囲が見えてきた。
「で? まだ僕と結婚したい?」
「いや。私が間違っていたよ」
亜希を救うため、利実と結婚する。
そんな茶番は、許されない。
根本的な解決を目指すため、啓は父と対峙することを決意した。
「利実くん、本当にすまない」
「指輪は、ちゃんと亜希くんに渡してね」
「ありがとう」
「いいってことよ!」
明るい利実の声に背を押され、啓は離席した。
行く先は、実家。
厳格な父に、生まれて初めて歯向かいに、啓は向かった。
「あ~あ。チャンスを棒に振っちゃった」
残された利実は、ワインをがぶがぶ飲みながら、ふてくされた。
「これが啓さんと結ばれる、ラストチャンスだったのに」
でも、悪くない気分だ。
利実は、亜希のことも大好きなのだから。
「一番のハッピーエンドは、あの二人が無事に一緒になることだもんね」
僕も、早く素敵な人を見つけよう!
そんな自分に、自分で乾杯していた。
啓と亜希の二人に向けて、乾杯していた。
ともだちにシェアしよう!