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第二十四章・2

 いつか、こんな時が来る。  そう、待っていた。  このように、蒔絵は静かに言った。 「啓。ようやく、一人前になりましたね」 「何を言う、蒔絵。啓はすでに成人し、一人前の医師として……」 「人間としては、半人前でしたよ」  いつも父親の顔色をうかがい、その言いなりになる。  そんな息子の姿に、蒔絵は母として心を痛めていた。  それが、患者のために、愛する人のために、必死になる。  そして、啓をそのように育ててくれたのは、間違いなく亜希なのだろう。  蒔絵は、そのようにとらえていた。  亜希に、感謝していた。

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