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第二十四章・3
「お父様が駄目だとおっしゃるのなら、わたくしの実家で手術をなさい」
「蒔絵!」
父は、往生際悪く鼻で笑った。
「何を言う。設備もろくに整っていないクリニックで、そんな大それた手術ができようもない」
蒔絵の実家である医院は、父が院長を務める総合病院より規模が小さい。
しかし、彼女はこともなげに言った。
「今から揃えれば、問題ありません」
「優秀な助手も、要るんだぞ」
「王子病院さんから、派遣していただきます」
父は、すっかり旗色が悪くなってしまった。
「お父様。許可してください」
啓に畳みかけられ、苦し紛れに吐いた。
「まずは明日、私がこの目で診察する。手術どうこうは、それからだ」
後は、もう寝る、とベッドルームへ早足で入ってしまった。
「お母様。ありがとうございます」
「いいえ。おめでとう、と言わせてね。啓、命を懸けられるような方と、巡り合えたのですね」
「はい」
啓は、亜希を想った。
(あのお父様に意見する勇気をくれて、ありがとう)
父が亜希を診察することには少々不安を覚えたが、大きな進歩だ。
明日を心待ちに、啓は深い息をついた。
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