140 / 146
第二十五章 そして未来へ
啓は、世間の注目のただなかにいた。
若き、天才外科医。
眉目秀麗にして、エリートのアルファ男性。
その啓が、iPS細胞から作製した心筋細胞シートの移植手術に成功した。
治験自体はすでに複数の報告があるが、今回は世界初のオメガ男性に対してだ。
10代という亜希の若さも、幼くして難病に苦しむ患者たちへの明るいニュースだった。
亜希のプロフィールは、プライバシー保護のためにこれ以上明かされていない。
ただ、経過は順調、とだけ報道された。
「以前の私なら、のぼせ上って得意満面になっていただろうな」
そう、啓は振り返る。
亜希の術後の容体が安定してから開かれた、記者会見。
そこで啓は、ただただ自分を支えてくれた人々に感謝した。
この治療法が出来上がるまでの、膨大な量の基礎研究に携わった人々。
心筋細胞シートを作ってくれた、技術者たち。
経験不足の自分に助言や指導をしてくれた、医師たち。
そして何より。
『僕は、啓さんを信じています』
命を預けて、手術を受けてくれた、亜希。
「私はこういった多くの方々に、心より感謝しています」
そう言って、会見を締めくくった。
ともだちにシェアしよう!