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第二十五章・4
「啓さん」
「亜希。結婚して欲しい」
婚約は、している。
だがそれは、二人の間だけの約束だ。
啓は改めて、きちんと未来を描きたかった。
誰からも認められ、祝福される未来を。
「私の父も母も、ぜひ君に会いたい、と言っている」
「啓さんのお父さんって、院長先生ですか?」
「そうだ。けれど今度は、君を患者としてではなく、私の決めたパートナーとして会いたい、と」
「啓さん。僕……」
啓の姿が、涙でにじんでくる。
亜希はそれを指先でぬぐい、笑顔を作った。
「やだな、僕。こんなに。こんなに嬉しいのに、涙が……」
そんな亜希に、啓は腕を伸ばした。
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