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第二十五章・6

「では。お祝いに、美味しいものでも食べに行こうか」 「また、お祝いですか?」 「お祝い事は、何度あってもいいものだ」  啓は立ち上がると、亜希をうながした。 「何か、食べたいものはあるかい?」 「僕、お寿司が食べたいです。松前さんの、お寿司!」 「いいね。彼に、私たちの婚約報告をしよう」  ホテルの駐車場に待っている啓のメルセデスに乗り込み、二人はシートベルトを締めた。 「亜希、値段は気にせずたくさん食べるんだぞ?」 「僕、小食なので。あまり多くなくても大丈夫ですよ」 「それはいけない。腹が減っては戦ができぬ、と言うじゃないか」 「啓さん、戦をするんですか?」  それには一つ咳ばらいをし、啓は目を逸らしたまま答えた。 「さっきのホテル、部屋を予約しているんだ」 「えっ」 「亜希も元気になったことだし、久しぶりに激しい運動を……」 「もう! 啓さん、ったら!」  真っ赤になって小さなこぶしを振り上げた亜希の手を、啓は笑いながら優しく受け止めた。 「愛してるよ、亜希」 「啓さん。……僕も、愛してます」  二人の唇が、重なった。  別々に歩んできた、二人の軌跡が重なった。  これからは、共に歩む。  希望に導かれ、明るく照らされた同じ道を、一緒に。

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