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ある日、落ちてくる(2)

「えっと、その、今のは――」  ――泉ちゃんがあんなことばっかり言うから、つい。  戸惑いながら弁解の言葉を探していると、再び鉄扉が開く音がして、それをさえぎった。   緒方だ。 「おい、なんか凄い音しなかったか――うわ」  いくつかのキーカバーがはじけ飛んで転がったパソコンの姿に、全てを悟ったのだろう。緒方は階段を駆け下りてくると、呆然とする理央を押しのけ、へたり込んだままの佑の顔を覗き込んだ。 「大丈夫か?」 「……だいじょうぶ、です。ただびっくりしただけで。あ、データは」  理央に訊ねる。 「――大丈夫だと、思います。元データは全部社内システムに保存してあるので」 「そうですか、よかった」 「なに言ってんだおまえら!」  緒方が珍しく声を荒らげた。 「まず水野に怪我がないか確かめるのが先だろ!」 「緒方さん、おれは本当に大丈夫です」  だいたい、理央が安否確認もせず放心してしまったのは、自分のせいだ。 『SEXが下手な人』  がっつりセクハラ発言をかましてしまった。期待の若手に。  自己嫌悪で言葉をなくす佑の様子をどう受け取ったのか、緒方が申し訳なさそうに顔を歪める。 「――すまない、俺の指導不足だ」 「緒方さんのせいじゃないです」  張り詰めたような声を発したのは、理央だった。  見れば、なにかを噛み締めるような顔をしている。さすがに、こんな過失をできる上司にひっかぶられるのは気が咎めるのだろう。 「……すみませんでした、水野さん」  理央が、なにか苦いものでも飲み下すような顔で謝罪する。  この人、おれの名前知ってるんだな――  非常事態なのに、なぜかそんなことが気にかかった。

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