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第6話
先生は僕から離れると手揉みをする。
「俺は君を生かすことにした。さあ、そうと決まれば忙しいぞ。君、名前は?」
さも楽しそうに手を合わせながら、僕に問いかけてくる。
「森王子ですけど。」
「もり おうし?さぁ、ついて来なさい。くれぐれも逃げないように。逃げても仲間が必ず君を殺しにくるからな。」
僕は言われるがまま、先生の後に続いてトイレを出る。
緊張して強張った体の僕を尻目に、手際よく洗面台に投げてあった僕の制服を手に取り纏めると、颯爽と廊下を歩いていく。
僕は慌てて、覚束無い足で懸命について行った。
向かった先は保健室だった。
ガラガラと扉を開けると、僕に中に入るように促す。
「そこのベッドにカーテンを引いて横になりなさい。あ、服は脱いで裸になっておくように!すぐ戻るから!」
それだけ言うと、再びガラガラと保健室の扉を閉める。
廊下から先生のパタパタという足音が木霊するのが聞こえた。
僕はぽかんと締められた扉を見つめる。
これ、もしかして逃げられる??
しかし次の言葉が頭を過る。
ー「俺が殺さなくても、仲間が必ず殺しにくるぞ。」ー
仲間って、吸血鬼ってそんなにいるのか。
先ほどあったことをぼんやりと思い返す。
カラスや猫を従えているところを察するに、きっと嘘ではないのだろう。
僕に与えられた選択肢は二つ。
ここから逃げて、いつ殺されるかも分からない恐怖に怯えながら毎日を過ごすのか。
先生の言いなりになって生かしてもらうのか。
どちらをとっても、僕には絶望的に思えた。
吸血鬼に生かしてもらう場合、やはり毎日血を啜られるのだろうか?
だけど、それでも殺されるよりも幾分かマシな気がする。
仕方なく、僕はベッド脇に座る。
それからカーテンを引いた。
服を脱いで寝てろって言われたけれど、
え?パンツも脱ぐの?
そんな事を考えながらモタモタしていると、再び保健室の扉がガラガラと音を立てた。
「森君。いるかい?」
「はい。居ますけど。」
「良かった。逃げる事も出来ただろうに、逃げなかったところを見ると話を分かってくれたかな?」
「・・・そうですね。」
僕が返事を返すや否や、ベード脇のカーテンが捲られる。
すると、少しヨレた先生が姿を覗かせた。
「何してるんだ?」
僕はおしりまでパンツを下ろした状態のまま、ベッドに膝をついた姿勢でいた。
「・・・先生が脱げって仰ったんじゃないですか。」
すると、先生はぶっと吹き出す。
「パンツまで脱げとは言ってないぞ。」
それを聞いて僕は耳まで赤くなった。
確かに裸になれって言ってたよ!
僕は恥ずかしさのあまり俯くと、勢いよくパンツをずり上げる。
「君、もしかして俺を誘っているのか?」
ニタニタと楽しそうに喋り始める。
「さそっ、誘ってませんっ!!」
恥ずかしさと、動揺で噛んでしまう。
そんな僕を尻目に、先生は黒いトランクを開けると、カチャカチャと中身をいじくり回し始めた。
「待たせて悪いね。流石に学校の保健室にこんな物騒なものまでは置いておけないからな。念のためと思って車に積んで置いて良かったよ。あと、割れた試験管の掃除と、担任の先生にも話はつけておいたから心配するな。」
そう言うと、トランクから医療用のメスのような物を取り出しチラつかせる。
「傷は浅いほうが治りは早いからな。荒療治になってしまって悪いが、これも君を生かすためと思って耐えてくれ。」
そう言うと、手早く僕に猿轡をするとベッドに押し倒す。
それから暴れようとする僕の両手両足は縛り上げられた。
やばい。
やっぱり僕は殺される。
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