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第12話
赤信号が青に変わると、車が一斉に動き出した。
結局あの後、僕は先生に送って貰うことになったのである。
理由は、まだ二、三日は病院はやめておいた方がいいという結論に至ったからだ。
思った以上に肩の傷が深刻で、それを見た先生も相当なショックを受けたらしかった。
その証拠に、いつもニタニタ笑っているはずの太宰先生が、先程から終始無言なのである。
「あのぅ、僕の家こっちじゃ無いんですけど。」
昨日は左に曲がったはずの道を、今日は右に曲がったので、僕はおずおずと尋ねた。
「今日は少し寄り道するよ」
視線を前方から外すことなく先生は受け答える。
何処に連れ込まれるのだろうとビクビクしていると、よく見慣れた黄色い看板のドラッグストアに停車した。
「君は降りずに待ってなさい。直ぐに戻るから。」
バタンと扉を締めると店内に吸い込まれていく。
そして、言った通り五分と経たずに店から出てきた。
再び扉が開かれると、買物袋を僕に押し付けてくる。
「増血剤だから、後で飲みなさい。」
びっくりして、その袋を受け取る。
「自力で自分の血を増やせるんですか?」
「当たり前だろ。普通の人間と寿命と治癒能力以外変わらないって言ったでしょ。」
僕に再び疑問が浮かぶ。
「増えた血の分って僕のなんですか?先生の血が増えるんですか?」
「そうだなぁ。」
右手を顎に添えるとあっちを見ながら先生は答えた。
「君の血が増えることは間違いないが、従来の君の血ではなく、俺の体に流れている血と全く同じものが、君の体内で生成されるようになる」
それからこちらを見て、付け加える。
「輸血する時の一番の適合者は、君の親兄弟では無く、俺になるって事ね」
そう言うと悪戯っぽく、くつくつと笑った。
その話の内容には戸惑いを覚えたけど、先生が笑った事で僕は安堵した。
あれ?
おかしいな。
何で僕の命を弄んだ憎むべき対象を心配なんてしてたんだろう。
「そうだ、今週日曜空いてるか?」
唐突に先生は切り出す。
「デートのお誘いならお断りしますけど。」
僕は警戒しながら言葉を返す。
この人は僕の命をオモチャのように転がしたんだ。
これ以上つけ入れられないようにしないと。
しかし、先生はあっさりとそれを否定し、僕の警戒心は無駄になった。
「違う。昼間カラスから連絡があってね。急遽、今週日曜日に元老会議が開かれることになったのよ。」
「元老会議ですか?」
耳慣れない言葉に僕は唾を飲む。
どんな物なのか全く分からないけれど、厳格な会議なのだろうと直感で理解した。
「空いてます。」
「それは良かった。此処だけの話、あいつらは頑固で融通が利かないからな。もし予定があったとしても、強制キャンセルで強引に拉致して連れていくところだったよ」
「やめてください。」
「嘘、冗談。」
くつくつと口の端を緩めて笑う先生の目は、じっとりとこちらを見ている。
何ですか、その反応。
とても怖いです。
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