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第13話

僕は改札口で先生を待っていた。 先生から貰った増血剤が効いているのか、体調は徐々に好転している。 Tシャツにジーンズというラフな格好。 それにも関わらず、この夏の暑さに敵わずに額から汗を流しては制汗シートで拭っていた。 元老会議と聞いたので、正装で行かなければいけないのかと尋ねたら、普段着でいいという返答を得た。 寧ろ、制服では来ないでくれとも。 なのに、、、 「悪い。待たせたね。」 声を掛けてきた男は、ワックスでびしっと髪を整え、黒の革靴にフォーマルスーツを羽織っている。 「待ちました。じゃないですよ!何ですかこの格好?」 太宰先生はぽかんと僕を見つめている。 「何ですかって、元老会議に出席するんだから、この位当たり前でしょ。」 「いや待ってください。僕にラフな格好で来なさいと言ったのは先生ですよね?」 「君は子供だからいいんだよ。」 不意に先生の手が伸びて、親指で唇を制される。 「ちょっと声が大きい。学校関係者に見つかったらどうするの。」 辺りをキョロキョロ見回すと、二枚の電子マネーを取り出し片方を僕に手渡す。 「とりあえず中に入るよ。これ使いなさいね。」 言うが早いか、先生はさっさと改札を通り抜けていく。 反論の余地も与えないつもりですか。 それにしても、なんで人差し指じゃなくて親指だったの? むくれたらいいのか、笑ったらいいのか分からないまま改札を抜けて、慌てて先生の後を追った。 ホームまで降りていくと、やっと先生の背中に追いついた。 体力が回復傾向にあるとはいえ、まだ高低差がある場所を駆け足で渡りきるのは無理だった。 息を切らしながら、先生に尋ねる。 「・・・本当に制服じゃなくて、っ良かった、んですか?」 先生は振り返りざまに答えた。 「当たり前でしょ。教師と生徒が休日にデートしてるのが見つかったら、処分されるのは俺なんだよ。」 僕は体温が上がっていくのを感じた。 多分夏の暑さだけじゃない。 「デートじゃないです。」 息も絶え絶えに、それだけをやっとの事で伝える。 「まぁ、別に俺は何でもいいんだけどね。」 それから、一つため息をつくと先生は付け加える。 「学校帰りに生徒を送迎するのも、本当は禁止されてるの。あれだって見つかったら、処分されるのは俺なの。しかも二回も。」 それ今言うんですか? いや、有り難かったですが、何で今、僕に罪の意識を植え付けてくるんですか。 っていうか、原因はあなたが作ったんじゃ無いですか。 っていう言葉は、暑さと気だるさと気力の低下により、全部飲み込まれてしまった。 僕は深呼吸して、呼吸の乱れを整えることに専念した。 次に改札を抜ける頃には、もうお昼を過ぎてしまった頃だった。 割と超距離を移動したのだけど、その道中、先生はしきりにジュースを奢ったり、駅の売店でお菓子を買ったりと、いちいち僕の扱いに対して忙しなかった。 何だか僕のこと、初孫が何かと勘違いしてませんか。 そんなのに喜ぶ訳、、、ありましたけど。 何だか悔しい。 途中でいつの間にか先生が購入していた達磨の形のお弁当も食べたので、僕のお腹はいっぱいだった。 先生のせいで、いつの間にか遠足気分になってしまっていたので、これから元老会議に出席しなければいけないのかと思うと、一気に胃が重くなる。 何より、僕のこの格好が心許ない原因の一つだった。 「先生、元老会議って一体何処で開かれるんですか?」 そういえば、何処でやるのか全く場所を聞いてなかった。 すると、その質問を受けて、いつものニタり顔がこちらの様子を伺いつつ覗き込むようにして顔を近づける。 くつくつと笑うと僕に言った。 「江戸城跡だよ。」

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