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第14話
江戸城跡と聞いて、僕の頭はぐるぐると渦巻いていた。
まさかね。
そんな、まさかね。
いや、そんな訳ないよね。
その様子を察知してか、僕を覗き込んでくる顔は更に言葉を付け足した。
「君の予想はきっと間違ってないよ。」
そう言って、今まで見たこともない楽しそうな顔で僕を見ながら笑った。
現地に着くと僕は立ち竦むしか無かった。
予想は見事に的中。
こんなところ、テレビでしか見たことありません。
しかも、僕こんな格好。
「こら、何してるの。さっさと来なさい。」
向こうで先生が僕を呼んでいる。
ちょいちょいと手招きまでされて、凄く恥ずかしい気持ちになる。
親戚のおじさんと子供みたいじゃないですか。
慌てて僕は後を追う。
しばらく行くと人気の少ない通りに出る。
すると、先生が徐に木の裏をトントンとしきりに足で叩き始める。
すると向こうでズリズリと音がしたかと思うと地面にぽっかり穴が空いていた。
なにこれ。
どっかで見た事あるやつだ。
電話ボックスじゃなかっただけマシかもしれない。
「早くっ!」
声が聞こえたかと思うと、次の瞬間僕は穴の中に居た。
頭上を見ると既に穴は塞がっている。
どうやら、僕は先生に腕を掴まれて文字通りこの穴に転がり込んだらしかった。
それに気づいたのは、僕が先生に覆い被さるようにして2人で倒れこんで居たからだ。
「すみません。」
不可抗力とはいえ押し潰してしまった事を素直に謝る。
「構わないさ。それより、」
先生は埃を叩くと、着ていたスーツの上着を脱ぎ僕の肩にかける
「中は寒いだろう。吸血鬼は外の人間より暑さに弱いのが多いんだよね。」
僕は肌寒さを感じて身震いする。
外の暑さを全く感じさせない室内は、まるで巨大な冷蔵庫のようだった。
両脇にランプが取り付けられたその一角は、細長く、ずっと向こうまで続いている廊下のようだった。
僕は先生の後に従い歩を進める。
道中誰かとすれ違った。
「こんばんは」と先生は会釈する。
相手もまた「こんばんは」と挨拶を交わす。
先生に脇を小突かれて、僕も咄嗟に「こんばんわ」と挨拶をした。
相手は初老の紳士のようだった。
ステッキを持ち、深く帽子を被りなおしたその人は、ゆっくりと通り過ぎていった。
「先生、まだ昼間なのに『こんばんは』で良かったんですか?」
「そうだよ。こちらの世界は昼夜問わず、常に『こんばんは』が一般的だね」
「そうなんですね」
先生は立ち止まり顔を近づけて話し始める。
「ここではあまり余計な事は言わない、しないが鉄則だ。誰に何処で何を見られて聞かれるか、解らないからね。君は俺に習い見様見真似で行動しなさい。」
「わかりました。」
歩いて行くうちに、中は幾重にも入り組んでいる事が伺えた。
左右に何本も廊下が伸びていて、途中あちこち曲がっては突き当たりまで行き着き、再び戻る事を繰り返しながら進んで行った。
はっきり言って非効率だった。
地図もなければ看板もない。
あるのはランプと絵画だけ。
30分程歩き回っただろうか?
僕はいつの間にか息を切らし始めてしまっていた。
肩でゼーゼーと息をつく。
それに気付いた先生は、僕の肩に左腕を回し歩調を合わせてくれた。
だけど、それが逆に僕の心配を煽る結果に繋がった。
僕が息をついて立ち止まる隙間に、一瞬左腕の時計を気にしているのに気付く。
そういえば、開会時間が何時なのかも僕は聞かされなかった。
何度突き当たりに当たっただろうか?
解らなくなった頃、一つの絵画の前で立ち止まった。
先生はその絵画を暫く見てたかと思うと、四隅をコツコツと叩き始めた。
この展開も、何処かで見た事あるんですが。
心のツッコミを他所に、その絵画はゆっくりと扉となって向こうに開いた。
人のざわめきがこちらまで聞こえてくる。
僕は緊張と寒さで手足がカチコチに凍りついてしまっていた。
ロボットみたいに歩きながら、先生に促されて席に座る。
でもそこは傍聴席を思わせるような末席で、議長席が豆粒のように見える位置だった。
変だなと僕は思った。
元老会議に呼び出されたというから、てっきり最前列に座らされて陳述するものだと思っていたからだ。
議会が始まっても、僕の出番は一向にやって来なかった。
僕は国会中継でも見ているかのような気分で、一体何を話し合っているのかも解らず、睡魔に負けそうになっていた。
僕が船を漕ぎだすと、先生に脇腹を小突かれ起こされるというのを何度も繰り返す。
そうして気付けば会議は終わっていた。
全員起立の合図と共に議会は幕を閉じてしまった。
出入り口に人がわっと押し寄せて混雑している。
途中混雑に乗じて、握手を求められる場面があった。
彼らの帰り際、代わる代わる数人に手を伸ばされたのでそれに応じ、よろしくお願いしますとその度に挨拶を交わした。
僕と先生はその人だかりを最後まで見送った。
最後の1人が退室すると、僕も退室しようと出口に向かう。
「待ちなさい」
しかし先生の声で僕は止められた。
「君の出番はこれからだよ」
そう言うと僕の手を引き、舞台の中央に引き上げられた。
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