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第16話
「ご注文のチョコレートパフェで御座います。以上で宜しかったでしょうか?」
僕の目の前にブラウニーの乗ったパフェが運ばれてくる。
両脇にバナナとクッキーのおまけも飾られている。
僕はそれを大きな口で頬張った。
地元に帰ってきたのは6時を過ぎた頃だった。
乗り換えのタイミングで途中下車し、赤い看板のファミレスに寄り道をした。
僕は緊張と疲れでお腹がぺこぺこだったから、有り難かった。
もうご飯も食べ終わり、デザートタイムに入ったところ。
お店の中は賑やかで、あちこちからパタパタと子供がドリンクバーにやってきてはジュースを持って自分の席へ戻っていく姿が見受けられた。
「何で何も教えてくれなかったんですか?」
僕が呟くと、太宰先生はスマホから視線を外し僕の方へ向き直った。
「僕のこと口では息子扱いしておきながら、全く蚊帳の外だったじゃないですか。」
「拗ねてるの?」
「違います。」
先生はニタニタとこちらを見てくる。
「別にあえて話さなければならないような内容じゃなかったろう?勝算の無い賭けを俺がする訳無いじゃない。」
くつくつと笑いながらカップを手に取り、先生はコーヒーを一口啜る。
なぁんっか、ムカつく。
「血が薄いとか、サンプルとか、一体何なんですか?まぁどうせ僕には関係無いですけど。」
相変わらずニタニタ顔で、先生はさも楽しそうだ。
「血が薄いって言うのは混血のことで、サンプルっていうのは俺の精子が必要なのよ。」
ニタニタしながら先生は続けた。
「吸血鬼の歴史も人類の歴史とそう長さは変わらないんだが、世代交代が進むにつれて、人間と交配する者が増えたのね。要するに、どんどんとチカラが衰えていった訳だ。それでまぁ、今になって元老院が騒ぎ始めたって所かな。因みに俺も純血じゃ無いが、偶然が重なって割と力が強めで生まれたのよ。」
「それにしても、サンプルになるのが先生一人だけだなんて、おかしく無いですか?」
「それなんだよなぁ。」
先生は尚一層、可笑しいと言わんばかりに声を押し殺しながら笑う。
それから顔を近づけて左手を口に添えると、こう言った。
「俺が童貞だから。」
未だ経験の無い僕は、ぶわっと顔が熱くなった。
「何ですか。それ、意味がわからない。」
「長く生きてる頑固者が多いせいで、未だに迷信じみたものが信じられちゃってる訳よ。純潔には神秘的な力があるってね。俺は今回、それを逆手に取ったの。」
先生は笑いを堪えるのに必死な様で、手に持ったカップがカタカタと震えている。
「俺は男にしか興味ないから、当たり前なんだけど。」
それから、ひとしきり笑うとこちらをマジマジと見つめる。
「けど、絶対漏らすなよ。俺の性癖がバレたら、不能と同じだから価値が全く無くなる上に、同性愛者は忌み嫌われる存在で抹殺対象だからな。」
僕はこくりと頷いた。
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