16 / 177

第16話

「ご注文のチョコレートパフェで御座います。以上で宜しかったでしょうか?」 僕の目の前にブラウニーの乗ったパフェが運ばれてくる。 両脇にバナナとクッキーのおまけも飾られている。 僕はそれを大きな口で頬張った。 地元に帰ってきたのは6時を過ぎた頃だった。 乗り換えのタイミングで途中下車し、赤い看板のファミレスに寄り道をした。 僕は緊張と疲れでお腹がぺこぺこだったから、有り難かった。 もうご飯も食べ終わり、デザートタイムに入ったところ。 お店の中は賑やかで、あちこちからパタパタと子供がドリンクバーにやってきてはジュースを持って自分の席へ戻っていく姿が見受けられた。 「何で何も教えてくれなかったんですか?」 僕が呟くと、太宰先生はスマホから視線を外し僕の方へ向き直った。 「僕のこと口では息子扱いしておきながら、全く蚊帳の外だったじゃないですか。」 「拗ねてるの?」 「違います。」 先生はニタニタとこちらを見てくる。 「別にあえて話さなければならないような内容じゃなかったろう?勝算の無い賭けを俺がする訳無いじゃない。」 くつくつと笑いながらカップを手に取り、先生はコーヒーを一口啜る。 なぁんっか、ムカつく。 「血が薄いとか、サンプルとか、一体何なんですか?まぁどうせ僕には関係無いですけど。」 相変わらずニタニタ顔で、先生はさも楽しそうだ。 「血が薄いって言うのは混血のことで、サンプルっていうのは俺の精子が必要なのよ。」 ニタニタしながら先生は続けた。 「吸血鬼の歴史も人類の歴史とそう長さは変わらないんだが、世代交代が進むにつれて、人間と交配する者が増えたのね。要するに、どんどんとチカラが衰えていった訳だ。それでまぁ、今になって元老院が騒ぎ始めたって所かな。因みに俺も純血じゃ無いが、偶然が重なって割と力が強めで生まれたのよ。」 「それにしても、サンプルになるのが先生一人だけだなんて、おかしく無いですか?」 「それなんだよなぁ。」 先生は尚一層、可笑しいと言わんばかりに声を押し殺しながら笑う。 それから顔を近づけて左手を口に添えると、こう言った。 「俺が童貞だから。」 未だ経験の無い僕は、ぶわっと顔が熱くなった。 「何ですか。それ、意味がわからない。」 「長く生きてる頑固者が多いせいで、未だに迷信じみたものが信じられちゃってる訳よ。純潔には神秘的な力があるってね。俺は今回、それを逆手に取ったの。」 先生は笑いを堪えるのに必死な様で、手に持ったカップがカタカタと震えている。 「俺は男にしか興味ないから、当たり前なんだけど。」 それから、ひとしきり笑うとこちらをマジマジと見つめる。 「けど、絶対漏らすなよ。俺の性癖がバレたら、不能と同じだから価値が全く無くなる上に、同性愛者は忌み嫌われる存在で抹殺対象だからな。」 僕はこくりと頷いた。

ともだちにシェアしよう!