21 / 177
第21話
僕の学校には音楽室が2つある他に、狭い三畳くらいのスペースに防音措置がされピアノだけが置いてある部屋が4つあった。
通称ピアノ室。
休み時間の生徒の利用は自由で、誰でも使うことが出来た。
そして現在、僕はそのピアノ室にいる。
坂口さんと二人きりで。
1時間目が終わると僕の席に坂口さんがやって来て、ソプラノの練習に付き合ってほしいと頼まれた。
それならと、僕はみゆきも誘おうと提案したのだけど、坂口さんはみゆきが二人で練習する事を勧めてきたのだと言う。
僕は慌ててみゆきの席を見ると、みゆきは悪戯っぽく笑ってこちらに手を振ってきた。
僕は瞬時に仕組まれたのだと悟り、心のうちで舌打ちした。
そんなやり取りがあり、昼休みになると、坂口さんと二人でピアノ室に篭ったのだった。
坂口さんの歌声は美しく幻想的で、僕に教えられそうな事は何1つない程完璧だった。
「どうでしたか?よくない部分はありませんでしたか?」
坂口さんは僕におずおずと尋ねて来る。
「綺麗だったよ。僕に教えられる事は何もなさそう。」
僕が素直に賞賛すると、彼女の頬が薔薇色に染まる。
そして俯き加減に続ける。
「有難うございます。でも、まだ覚えることが多くって、森さんみたいになかなか思うように声量が出ません。」
僕は彼女に『森さん』と呼ばれて背中がくすぐったくなった。
「同級生なんだし、おうしって呼び捨てで良いよ。みゆきもそう呼んでるし。」
「そうですか?じゃぁ私の事もあんって呼んでくださいね。」
「分かった。これからは、あんって呼ぶね。」
すると彼女は嬉しそうに見上げてきた。
僕は彼女の微笑む姿は可愛いなという感想を持った。
昼休みの終わりも10分前になり、そろそろ戻ろうかと提案すると、彼女は僕にとんでもない事を告げてきた。
「私と付き合ってくれませんか?」
僕は目を見張る。
腰が抜けたかと思った。
「つ、付き合う?な、に?買い物とか?」
僕は動揺を押さえきれず声が上ずる。
彼女は、ふるふると首を横に振る。
「違います。私・・・おうしの事が好きなんです。」
生まれて初めてされる告白に、僕はただただ動揺し、目眩を覚える。
何か言わなきゃと思い、口をぱくぱくさせながら、なんとか言葉を繋げた。
「い、いよ。うん、付き合おう。」
あんの表情はぱぁっと華やぎ、両手に賛美歌を握りしめながらやった!と小さくその場を飛び跳ねた。
ともだちにシェアしよう!