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第21話

僕の学校には音楽室が2つある他に、狭い三畳くらいのスペースに防音措置がされピアノだけが置いてある部屋が4つあった。 通称ピアノ室。 休み時間の生徒の利用は自由で、誰でも使うことが出来た。 そして現在、僕はそのピアノ室にいる。 坂口さんと二人きりで。 1時間目が終わると僕の席に坂口さんがやって来て、ソプラノの練習に付き合ってほしいと頼まれた。 それならと、僕はみゆきも誘おうと提案したのだけど、坂口さんはみゆきが二人で練習する事を勧めてきたのだと言う。 僕は慌ててみゆきの席を見ると、みゆきは悪戯っぽく笑ってこちらに手を振ってきた。 僕は瞬時に仕組まれたのだと悟り、心のうちで舌打ちした。 そんなやり取りがあり、昼休みになると、坂口さんと二人でピアノ室に篭ったのだった。 坂口さんの歌声は美しく幻想的で、僕に教えられそうな事は何1つない程完璧だった。 「どうでしたか?よくない部分はありませんでしたか?」 坂口さんは僕におずおずと尋ねて来る。 「綺麗だったよ。僕に教えられる事は何もなさそう。」 僕が素直に賞賛すると、彼女の頬が薔薇色に染まる。 そして俯き加減に続ける。 「有難うございます。でも、まだ覚えることが多くって、森さんみたいになかなか思うように声量が出ません。」 僕は彼女に『森さん』と呼ばれて背中がくすぐったくなった。 「同級生なんだし、おうしって呼び捨てで良いよ。みゆきもそう呼んでるし。」 「そうですか?じゃぁ私の事もあんって呼んでくださいね。」 「分かった。これからは、あんって呼ぶね。」 すると彼女は嬉しそうに見上げてきた。 僕は彼女の微笑む姿は可愛いなという感想を持った。 昼休みの終わりも10分前になり、そろそろ戻ろうかと提案すると、彼女は僕にとんでもない事を告げてきた。 「私と付き合ってくれませんか?」 僕は目を見張る。 腰が抜けたかと思った。 「つ、付き合う?な、に?買い物とか?」 僕は動揺を押さえきれず声が上ずる。 彼女は、ふるふると首を横に振る。 「違います。私・・・おうしの事が好きなんです。」 生まれて初めてされる告白に、僕はただただ動揺し、目眩を覚える。 何か言わなきゃと思い、口をぱくぱくさせながら、なんとか言葉を繋げた。 「い、いよ。うん、付き合おう。」 あんの表情はぱぁっと華やぎ、両手に賛美歌を握りしめながらやった!と小さくその場を飛び跳ねた。

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