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第22話
朝登校すると、すかさずあんが僕に駆け寄ってきた。
彼女はふわっと笑って僕に告げる。
「一緒に礼拝堂行きましょう。」
僕は二つ返事でいいよと頷くと、みゆきの居るであろう席を見る。
みゆきは、いつものようにおはよう!と元気に言うと、笑顔で僕の横を通り過ぎる。
僕が何か言いかけると、タンタンと軽い足取りで今日は先に行ってるねと告げられた。
僕はあんと二人並んで歩く。
あんのお喋りは小鳥の囀りのように、心地よく響いた。
礼拝堂に着き、あんの席と離れた位置にある僕の自分の席に座ると、みゆきにやったじゃん!と頭を小突かれる。
僕は照れ臭くて、みゆきに振り返らずに頭をぽりぽりと掻いた。
礼拝が終わり全校生徒の後に続いて教室に戻る最中、前方から駆け寄ってきた保健師に呼び止められる。
「森君待って。」
僕は何事だろうかと立ち止まる。
「はい。」
「足を捻挫したんだって?昼休みに湿布を貼り替えに来なさいね。」
「・・・はぁ。分かりました。」
僕は咄嗟に、元老院からまた何か通達があったのだと悟る。
太宰先生はそれだけ言うと、足早にその場を後にした。
一連の会話を聞いていたみゆきが、横でびっくりした声を出す。
「え?!おーし捻挫してるの?大丈夫なの??」
みゆきのリアクションがあまりに大きいせいで、隣にいるあんまでおどおどしだす。
「おうし、捻挫してたんですか?私の肩使いますか?」
「え、あ、大丈夫だよ。昨日家でちょっと捻っちゃっただけだから。全然歩けるから。」
二人に目一杯心配されてしまったせいで、僕は1日、足を捻ったフリをして過ごさなければならなくなってしまった。
僕は先生に言われた通り、昼休みに保健室を訪ねた。
案の定、みゆきとあんの二人が心配して、保健室に一緒について来ると言い出したのだか、そんな二人を制して、やっとの事で振り切って来たのだった。
「やぁ、遅かったね。」
太宰先生は事もなげに僕を出迎えた。
僕は悪態をつく。
「先生が余計な嘘つくから、大変だったんですからね。」
太宰先生は僕にそこのパイプ椅子に座るように促すと、麦茶をグラスに注いでから僕の隣に腰掛けた。
僕は先生に手渡された麦茶を受け取ると本題を切り出す。
「また元老院が何か言って来たんですか?」
すると太宰先生の顔が曇った。
「いや、今回は元老院は関係無いんだが、昨日カラスから連絡があってね。最近ネコを見かけなくなったらしいんだ。」
「それは良かったんじゃないですか?だってネコってスパイか何かだったんでしょう?」
僕は先生に渡された麦茶を飲む。
この夏の暑さの中、喉が潤っていく感覚にほっと一息つく。
先生を見ると眉間にしわを寄せて、僕をじっと見ていた。
「ネコは俺が隠れて異性交遊しないかどうかの監視役なんだよ。それが一週間も姿を見せてないとすると、何かおかしい。君のところは何も変わりはないか?」
珍しく太宰先生は焦っているようで、早口に喋った。
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