27 / 177
第27話
日曜日、僕はあんとの約束の為映画館の前に来ていた。
早めに着いたつもりだったのだが、既にあんは来ていて向こうで遠慮がちに手を振っている。
「ごめん、あん。待たせたかな。」
するとあんは、にっこりと微笑む。
「大丈夫ですよ。私も今来たところですから。」
小鳥のような囀りから、キラキラとした笑顔が溢れる。
僕らはチケットとポップコーンを購入し、館内のロビーで上映時間を待った。
僕は緊張で何を話せばいいのか分からずに居た。
だけど、隣にあんが居るだけで、気恥ずかしさと嬉しさで胸が一杯になっていた。
館内で上映案内放送が入る。
僕らは人混みに紛れながら場内に吸い込まれていく。
日本公開されてからまだ二週間しかたっていないという事だけあって、ほぼ満席だった。
僕らが席に着き暫くすると、映画が始まった。
映画の内容はアクションとファンタジーとコメディを織り交ぜたようなもので、なよなよとした外見の船長が、ひたすら仲間と共に冒険をしていた。
僕は時折、ぷっと笑いながらポップコーンを摘む。
隣のあんも笑って居るようで、押し殺すようにクスクスしているのを感じ取った。
ポップコーンを摘んでいると、たまにあんと手が触れる事があった。
そんな時気恥ずかしくて、映画の内容が入ってこない事が良くあった。
映画が終わる頃になると、どうやってあんと手を繋げばいいだろう?とそればかり考えていた。
上映も終了し映画館から出てくると夕方近くになっていた。
僕はまだあんと一緒に居たくて、街の中を散策しようと誘う。
あんは二つ返事で了承してくれた。
さて、どうしよう。
僕の隣で一緒にあんが歩いてくれている。
僕は緊張でじっとりと汗をかいていた。
やばい。
これじゃ、繋ぎたくても繋げない!!
勇気を出そうにも、僕の手は大洪水でそれどころじゃない!
「おうし、手を繋ぎませんか?」
下らない事を考えていたら、あんから先に切り出されてしまった。
大失態だ。
その流れで手を繋ぐべきなのに、僕はこんな手じゃ繋げないという思いが入り混じり交錯する。
そんな感じでもたもたしていると、更にあんに気を使わせてしまう結果になってしまった。
「嫌ですか?」
「じゃないっ!」
僕は咄嗟に否定する。
「その、違うんだ。今、凄く汗ばんでて、それで不快な思いをさせそうで」
すると、あんから手を握られた。
「おうしが嫌じゃないなら・・・こうしてたい。」
「嫌じゃない。嫌なわけ無い。寧ろ凄く、嬉しい。」
何て弁明すればいいのかまるで解らず、ただ必死で否定する事だけしか出来なかった。
どうか、誤解が解けてくれますように。
あんを見ると、頬が紅潮し嬉しそうな視線を受けた。
やっぱり可愛い。
何処をどうやって歩いたのか解らないけれど、ちいさな公園を見つけると、二人でベンチに座った。
「暑いね。飲み物買ってくるよ。」
暑さのせいなのか、緊張のせいなのか理由は不明だけど、いつの間にか喉が渇いていた。
僕が立ち上がろうとすると、あんは繋いだ手を離さない。
「待って。一緒に居て。」
潤んだ瞳に見つめられて、僕はまた、隣に腰を下ろした。
「ねぇ、おうしは私のことが好き?」
直球なこの質問に、僕はたじろいだ。
だけど、ふと思い返す。
まだ、あんには僕の気持ちを言葉で表現していないのだ。
気恥ずかしさと緊張で、顔に熱が集まっていくのを感じる。
だけど、きちんと伝えなければ。
「うん、好きだよ。」
「本当?」
思っても無いことに、聞き返される。
僕はあんに向き直った。
「僕はあんが、好きだよ。」
僕の言葉を聞くと、あんは笑った。
「おうし、目を閉じて。」
流石の僕にも、これは理解できた。
あんが望んでいること。
「あん、先に目を閉じて。」
僕はあんに促した。
僕だって、僕なりに男だ。
だったら、僕からいくのが定石じゃないか。
「お願い、目を閉じてて欲しいの。」
あんは、頑なに提案を受け入れようとしなかった。
僕は、これも男の努めなのだろうと思い、それを受け入れることにした。
「わかった、あん。瞑るよ。」
僕は目を閉じた。
じっと動かないようにして、その時を待つ。
すぐそこに、あんの気配を感じる。
右肩にぷつりと痛みを感じた。
ともだちにシェアしよう!