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第34話
僕はベッドに横になったまま、先生の様子を眺めていた。
先生は、保健室の窓から身を乗り出して何かを捕まえようとしていた。
暫く身を屈めていた先生は、むくりと身体を上に持ち上げ体勢を整える。
手には黒い塊を掴んでいる。
その黒い塊はバサバサと踊り出し、先生の手から逃れて窓のサッシに止まった。
「おいこら!死ぬかと思ったぞ。」
カラスが喚くように唸った。
「すまなかったな。早かったじゃ無いか。ありがとう。」
先生が礼を言うと、カラスはエッヘンと胸を張ったように見えた。
「俺は空の支配者だからな!この俺にかかればざっとこんなもんよ!」
窓ガラスにブチ当たって死にそうになった事を忘れたのか、先生の褒め言葉1つで上機嫌なカラスはサッシの上をピョンピョン舞い踊った。
「それで、どうだった?」
先生は落ち着いた様子で、カラスに訊ねる。
「2種類の吸血鬼の血を検出した。片方はもう1つの試験管の血液。」
「なんだって?!」
カラスは淡々と伝言を伝えたのだが、先生の驚嘆にヨロけている。
「声がデカいぞ!じゃあ、俺の仕事はこなしたらかもう行くぞ。長居すると見つかるリスクが高まるからな。じゃーな!」
カラスは一括りに喋り終えると、バサバサと飛び立った。
と、思ったら直ぐに戻ってくる。
「そうだ!褒美のこと忘れるなよ!!」
そして、今度こそ飛び立っていってしまった。
残された先生はその場でじっと動かない。
暫く両腕を窓枠につき、じっと外を眺めた後、僕のベッドまで戻って来た。
そこのパイプ椅子に座ると僕をじっと見つめている。
その目は心なしか怒りに満ちているように見えた。
僕は恐る恐る訊ねる。
「あの、2種類の血って何ですか?」
「それは俺が訊きたい。」
間髪入れずに返事を返される。
「どういう事なの。説明しなさい。」
僕には何が何だか分からなかった。
説明しろだなんて言われても全く身に覚えが無いのだ。
「いつの間にか、僕の血が再生したって事でしょうか?」
「それは絶対に有り得ないね。」
再びピシャリと言い放たれる。
「仮にあったとしても、俺の血が君自身の元々の血液を破壊する。俺の血と喧嘩した人間の君の血の勝率は0%だ。それほどに俺の吸血鬼としての血の力は強い。」
先生は顎に手を当てると思案顔になる。
「本当に身に覚えはないのか?俺に黙って誰かと内通してないだろうね。」
「し、してません!」
僕は慌てて否定する。
疑惑の目を向けられ続けるのは耐えられない。
そもそも、本当に身に覚えが無いのだ。
「僕は元老院に行った日以外に、先生以外の吸血鬼と接点を持った事はありません。元老院だってずっと僕は先生と一緒に居ましたよね?それをどうやって内通する隙があるんですか。」
先生は深く深く息を吐き出す。
「わかった。取り敢えず昼休みが終わるから教室に戻りなさい。放課後になったら、もう一度保健室に来なさい。話を聞くから。」
さっきまで優しかった筈の先生の口調は、急に冷たいものに変わっていた。
僕は寂しさと悔しさで一杯になった。
胸が張り裂けそうに痛む。
心臓のあたりを拳でぐっと抑え、僕は教室に向かった。
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