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第35話
言われた通り、放課後保健室に訪れた。
他の何もかもを置いて駆け足で。
一刻も早く、僕にかけられた疑惑を拭い去りたかった。
冷たく虐げるような視線を浴びるのは耐えられない。
お陰で、一応授業には出たものの、先生の事ばかり考えていて、全く勉強に身が入らなかった。
先生は僕の事を気に入ってたんじゃ無いのだろうか?
大して何とも思われてなかったんだろうか?
いや、違う。
大事に思われていたからこそ、僕の裏切りが許せないのだろうか?
僕の事が一番大切だったから?
はたと、足を止めた。
何故僕はこんなにも動揺しているのか。
僕をこんな体にした憎むべき相手なのに、そんな相手にどう思われたって、いいじゃ無いか。
そもそも裏切りってなんだ。
勝手に期待して、勝手に裏切られたと思われて、僕にしたらいい迷惑じゃ無いか。
だけど・・・。
僕がこんなにも動揺しているのは何故なのか?
僕があの場面に遭遇すらしてなければ、なんの接点も無く、平和な学校生活が送れたはずだ。
出会わなければ、こんな風に降り回されることもなかった筈だ。
出会わなければ・・・。
出会ってなかったら?
僕は出会わない方が良かったと思っている?
心臓の奥がズキンと痛む。
兎に角、誤解を解かなければ。
僕は意を決して、ガラガラと扉を開けた。
「おかえり。」
奥から耳慣れた声が聞こえて来た。
僕が様子を見ていると、ベッドで待つように促される。
「仕事がまだ終わらなくてね。すぐ済ませるから、いつものベッドで休んでなさい。悪いね。」
机に向かってペンを走らせながら僕に伝える。
僕はてくてくとベッドに向かい、よじ登るとカーテンをシャッと閉めた。
先生はこちらを一度も振り向かなかった。
ずっと机のうえの何かに視線を落としたまま、事務的に僕を誘導したに過ぎない。
僕は緊張とプレッシャーに押し潰されそうになっていた。
ベッドにごろりと横になると天井を見上げる。
そして大きく息を吐き出すと、深い呼吸を何度も繰り返した。
何度目かの呼吸で、僕は首を横に向ける。
ベッド脇は茶色い染みが点々と出来ていた。
僕のせいで出来てしまった、先生の染み。
僕は横に向き直ると、その染みを手でなぞった。
ジワリと目頭が熱くなる。
僕は裏切ってなんかいない。
裏切ってなんか・・・。
不意にカーテンが引かれ、太宰先生が顔を覗かせる。
「待たせて悪かったね。さて、話の続きをしようか。・・・泣いてるの?」
僕はギクリとして、顔をベッドに押し付けた。
「泣いてません。」
押し出すようにして声にする。
先生はガタガタと無造作に椅子をこちらに寄せて、そこに座った。
「そうか。なら話は出来るね?」
僕は枕にしがみついたまま、動けなくなった。
まさかこの姿勢で話が出来る訳もない。
だけど、顔を上げることもできない。
気持ちを切り替えるタイミングを見失ってしまった。
「顔を上げなさい。」
先生に促されて渋々枕から顔を離す。
僕は俯いたまま、先生の方に向き直る事が出来なかった。
「・・・裏切ってない。」
僕は喉の奥から言葉を捻り出した。
先生には聞こえただろうか?
何も返事はない。
「僕は裏切ってなんかいない。」
もう一度、はっきりと聞こえるように訴える。
しかし、それでも先生は何も答えなかった。
僕はじっと枕に向かって話し続ける。
「僕は先生しか知らない。元老院で出会った人以外、外で出会った吸血鬼なんて居ない。僕は先生しか。」
そこまで言うと、胸の奥から何かが込み上げてくるように、押し潰されそうになった。
ぐっと下唇を噛む。
再び、僕の口の中は鉄の味が漂い始める。
この血には、先生以外の別の誰かの血が混じっている。
僕自身にも、それは許せない事実だった。
いつ何処で、何故他人の血が混じったのか。
得体の知れない誰かの血を浄化したい。
おかしいな。
先生の血も他人の血の筈なのに、いつからこんなに拘る様になったのだろう?
気づくと言葉にしていた。
「僕自身も、誰かもわからない血が身体に流れているのは気持ちが悪いです。先生の血も他人の血に変わりはないけど、僕は先生の血しか欲しくない。」
「そうか。わかった。」
先生はそれだけ言うと、深く息を吐いた。
「まずはその、君の身体に混じってしまった別の血液をなんとかする所から考えよう。」
すると、僕の肩を両手で掴み、僕を向き直させる。
それから、シャツに手をかけて脱がしていく。
僕は大人しく先生に従った。
だけど、目のやり場に困った僕は瞼を閉じた。
先生の柔らかな手が僕の身体の上を移動してゆく。
「目立つ外傷は無いな。悪いが下も脱いでもらうよ。」
そう言うと、先生は僕のベルトに手を掛けた。
「この姿勢じゃやり難いな。具合悪い所申し訳ないが、ベッドに立って貰えないか?」
僕は素直に従う。
馴れた手つきで、僕からズボンもすっかり脱がしてしまう。
「下着も脱がすよ。」
「っ!」
僕が何かを言うより早く、先生に下着をずり下ろされる。
保健室のベッドの上に立ちながら、僕は裸にされてしまった。
緊張で動く事が出来ない僕は、先生に身体中、念入りに視姦される。
あちこち念入りに撫で回されて、僕の体の中心に血液が集まっていくのを感じた。
これは恥ずかしすぎる。
僕は只管に耐えながら、僅かに腰を引いた。
暫く丹念に僕の身体を調べると、先生は手を止めた。
僕は恐る恐る目を開ける。
先生は腕組みをして、顎に手を添えながら難しい顔をしていた。
「今の所、特別な外傷は見つかってない。残す所あと一箇所なんだが・・・。」
そう言うと、僕の躰の中心に視線を送った。
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