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第37話
身支度を整えた僕は、保健室のベッドの上に正座していた。
先生はといえば、いつになく上機嫌で、笑顔が絶える様子がない。
膝の上に拳を作り、僕はじっと俯いていた。
まさか、少し触られただけで吐き出すとまでは思っていなかったのだ。
確かに念入りに調べられたけど、先生も性感を刺激するような事は何もしていない。
傷が無いか見るためだけに触られただけなのに、僕は勝手に欲情してしまい、勝手に達してしまった。
なんて事だ。
僕は羞恥で動けない状態になっていた。
まともに先生の顔も見ることが出来ない。
ぐっと、拳に力を入れた。
「一体、いつ何処で混入したんだろうね?何処にもそれっぽい外傷が見当たらなかったな。」
先生は、自分の気持ちを隠しきれずに、ウキウキとした口調で話す。
「だから言ったじゃないですか。僕にも心当たりが無いって。」
僕はじっと拳を見つめながら答えた。
「しかし困ったな。何処の誰かも分からない血が突然混入したとなると、これは厄介だぞ。」
太宰先生が唸る。
「厄介?」
僕は聞き返す。
「そう。相手が誰かも分からないとなると、それを無効化するのは不可能だからな。ちなみに君の不調はその血のせいだよ。」
「え、そうなんですか??」
「君の中で、俺の血と、何処の誰かも分からない血が喧嘩し合っている。そのせいで、体調が優れないんだ。だけど気になることがある。」
そこまで言うと先生は一旦言葉を切った。
未だ顔が火照ったままの僕は、先生のほうに向き直る。
「俺の血が互角か、それ以上の相手だと言うことだ。前にも言ったが、俺の血は混血だが、サンプル提供者に選ばれる程には相当強い。となると、相手は純血の可能性が高い。」
先生は続ける。
「純血相手となると、相当厄介な相手だぞ。つまり、保守派相手に戦わないといけなくなる。保守派には先日喧嘩を売ったばかりだろ。何かしてくるかもしれないと警戒していたが、まさかこんな姑息な手を使ってくるとはね。」
「はぁ。」
僕はよく分からず、取り敢えず返事を返す。
それを見て、先生は眉間に皺を寄せた。
「分かってない様だから、あえて口にするが、俺の血が敗北したら、君は死ぬんだよ?」
「ええっ?!」
僕は驚嘆の声を上げた。
最近の僕は命の危険にさらされ過ぎている。
「君の体内では、俺の血が生産されている。つまり敵の血が勝った場合、敵の血が生産されるわけじゃ無いから、君はいずれ貧血で倒れる。」
ようやく事の重要さに気づく。
「ちょ!それは困ります!!なんとかならないんですか?!」
先生は難しい顔をした。
「取り敢えず、今の所考えられる方法は2つ。定期的に俺の血を輸血して命を繋ぎ止めるか、敵を探し出して、血の盟約を結び直すか、2つに1つだ。」
「結び直すって・・・。保守派がそんなの認めるんですか?」
「多分無理だろうね。」
先生は顎に手を置きながら、机に肘をついた。
思案顔でじっとこちらを見ている。
「・・・絶望的じゃ無いですか。」
僕は愕然としていた。
例え相手を探し出せたとしても、相手は保守派の吸血鬼だ。規律に厳しいに違いなく、禁忌を犯すとは考えられない。
そもそも、僕を生かすつもりならこんな事はしないだろう。
人知れず僕の存在を消すつもりで、仕掛けてきたに違いなかった。
「他にも方法が無いこともないが、今の所、オススメし兼ねるからあえて伏せておくよ。何れにしても、相手が誰なのか突き止めるしかないな。」
先生は辟易した様子で、ひとつ溜息をついた。
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