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第38話
「突き止めるって言ったって・・・」
僕は口籠もった。
心当たりがまるで無いのに、どうやって??
先生にとってもそれは同じだったようで、眉間に皺を寄せたまま表情が変わる事はなかった。
「虱潰しに行くしか無いな。」
ぽつりと先生は呟いた。
「純血って、今はどの位居るんですか?」
しかし先生は肩を竦める。
「さぁ?」
「名簿は無いんですか?」
「名簿というか、戸籍になるね。」
「それ、思いっきり個人情報じゃ無いですか??閲覧出来るんですか?」
「まず、無理だね。」
「・・・。」
僕は絶句する。
見つける手立てが何も無いじゃ無いか。
暫く顔を顰めていた先生が、ぽつりと呟く。
「こちらから、罠を仕掛けよう。」
「罠?」
「そうさ。虱潰しに行くしか無いと言っても、大体の目星はついてるからね。誰の血か分らなくとも、誰の差し金かくらいは見当がつくでしょ?」
僕ははっとする。
僕をこの世から葬り去りたい相手。
そして、僕の存在を知っている相手。
僕の顔を知る人物。
「元老会議に出席した人達。」
僕はぽつりと呟く。
「ご名答。」
先生は口元を歪めた。
「そして、権力を持ち、君と俺の事を忌み嫌っている人物はだーれだ?」
「・・・中原老中?」
先生はニタニタ顔で、パチンと指を鳴らした。
「上出来だよ。」
口の端を釣り上げてクツクツと笑う。
「作戦って、罠って、どうするんですか?」
「そうだなぁ。まぁ、それは追々考えるとしようか。」
「そんなこと言って、僕の事なんてどうでもいいんじゃ無いですか?危機管理も出来ない、血が混じるような僕なんか・・・」
こんな切羽詰まった状況で、呑気な事を言ってのけるものだから、僕はつい感情的になってしまった。
そんな悠長な事を言ってられる程、余裕なんて何処にもない。
先生は一瞬ハッとしたような顔をする。
そして、僕が言い終わらないうちに、がばっと抱き竦められた。
ぐっと腕に力を入れられる。
「命に代えても守ってやる。だから、安心して居なさい。怖い思いをさせてすまないね。疑ったりして悪かった。」
僕は身動きが取れなかった。
先生の腕が締め付けるからじゃ無い。
先生の腕から逃れようとする気持ちが沸きおこらなかった。
それどころか、ずっと包まれていたいような感覚に陥る。
相手は男で、吸血鬼で、僕の命を危険に晒してくる奴だぞ。
それなのに、僕の気持ちはグラついていて、そんな危険な奴相手に縋ろうとするなんてどうかしてる。
どうかしてる・・・けど。
どうしても、憎みきれない僕が居た。
きっと僕が犯した失態を、何でも受け入れてしまう先生のせいだと思った。
そんな先生の優しさと緩さに、否応無く絆されてゆく。
先生の腕に抱き締められて、このまま僕を委ねてしまいたい衝動に駆られる。
先生の抱擁は、そう思えてしまう程の安心感を与えてくれた。
「・・・はい。」
いつの間にか、僕の視界は歪んでいて溢れ出そうな泉を湛えていた。
瞼を閉じるとぽろりと頬を伝ってゆく。
それを先生に悟られたく無くて、顔を先生の肩口に押し付けた。
それから、ゆっくりと先生の背中に腕を回す。
一瞬、先生がびっくりしたようにたじろいた気がしたけど、僕は回した腕を離さなさった。
そっと、本当にほんの僅かな力で先生の背中を独占する。
先生は僕を抱き締めていた腕を緩めると、僕の頭をふんわりと撫でた。
何度も何度も、繰り返し。
先生が一緒なら、きっと僕は大丈夫だ。
きっと僕は死んだりしない。
僕にはこの人がついている。
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