41 / 177
第41話 カラスによる福音書4
カラスのはなし4
突然ダザイに呼ばれて、俺様は保健室の窓枠に留まっていた。
なんか慌ててる??
仕事で呼ばれたんじゃ無いなら、めんどくせーなぁと思いながら舌打ちする。
俺様は金で動く男なのだ。
一流のビジネスマンの俺様は、仕事を選んで請け負ってやっているのだ。
「おいこら!気安く俺を呼ぶんじゃねー。人間に見られたらどうするんだよ。叱られるのは俺なんだぞ。」
俺様はお手伝いさんなんかじゃねー。
ボランティアなんてしないのだ。
「今すぐこれを持って研究所に戻りなさい。それから研究所の誰でもいいから、この2本を渡して「片方にしか入って居ない異物を中和するワクチンを作れ。」と伝えなさい。」
ぬぁぁ?!
俺様に命令してくるだと?!
俺様は何か言い返してやりたかった。
いや、言い返すべきなのだ。
一流ビジネスマンは仕事を選ぶ権利があるのだ。
しかし、ダザイの鋭い眼光が俺様を石にしようとしてくる。
いつからお前は蛇になったんだ。
「しょーがねーなぁ。御褒美期待してるからなー!」
俺様は、決して怯んだわけでも、怯えたわけでもない。
俺様は優しいヒーローなのだ。
ヒーローは困ってる奴を助けてやるのが仕事だからな!!
俺様ってば、今日もイケメン過ぎるぜ。
ダザイから二本の試験管を引っ手繰るように受け取ると、一目散に研究所に逃げ帰った。
訳ではない。
ヒーローは研究所を悠々と尋ねてやった。
研究所のそこら辺の奴を捕まえると、俺様は言う。
「ダザイから伝言です。「片方にしか入っていない異物を中和するワクチンを作れ。」との言付けを預かって参りました。緊急事態であるとのこと、至急よろしくお願いします。」
俺様は一流ビジネスマン。
ビジネスしてる俺様はカッコイイ。
そんな俺様に研究員は羨望の眼差しを送ってくると、チッと舌打ちして奥に引っ込んだ。
暫く外で待ちながら、暇を持て余した俺様はファンに美声を披露することにする。
研究室の芝生の上で、俺様は華麗なダンスを踊りながら歌を唄った。
俺様のオーディエンスが一斉に木から飛び立ち、盛大な羽音を送られる。
期待に応えようと暫く唄ってやると、俺様の美声に全員満足したようで、気付けば誰も居なくなっていた。
そうこうしているうちに、向こうから慌てた様子で研究員が走ってきた。
あ、コケた。
俺様が羽根を貸してやろうと、飛び跳ねて近づくと後ずさった。
その女が言った。
「2種類の吸血鬼の血を検出した。片方はもう1つの試験管の血液。」
「分かりました。早速伝えに行って参ります。」
俺様は煌めく羽根を見せつけながら、大空へ飛び立つ。
やっぱカッコイイぜ。
俺様は何処にも寄り道せず、ダザイのところまで戻ってきた。
カッコイイ俺様は、華麗に滑空すると、窓のサッシへ着陸を試みる。
何かが脳天を直撃した。
俺様は目を閉じる。
俺様の雄姿も今日で見納めだな、と悟った。
遠くでダザイの声がした気がした。
気づくと俺様はダザイに足を掴まれ、宙釣りにされていた。
ひっくり返った俺様もカッコイイ。
じゃない!
「おいこら!死ぬかと思ったぞ。」
俺様は喚いた。
「すまなかったな。早かったじゃ無いか。ありがとう。」
ダザイが俺様に礼を言った。
俺様は胸を膨らませる。
「俺は空の支配者だからな!この俺にかかればざっとこんなもんよ!」
「それで、どうだった?」
俺様は研究所で言われた事をそっくりそのまま伝えてやった。
俺様がカッコよく胸を張っていたら、いきなりダザイが叫んだ。
「なんだって?!」
普段大人しいダザイが初めて喚いたので、流石の俺様もビックリしてひっくり返りそうになった。
「声がデカいぞ!じゃあ、俺の仕事はこなしたらかもう行くぞ。長居すると見つかるリスクが高まるからな。じゃーな!」
俺様の仕事はこれで終わりだ!
これ以上混乱に巻き込まれてやる筋合いはない。
さっさと退散するに限る。
俺様は大きく羽搏き、空へ舞い戻る。
あ!
「そうだ!褒美のこと忘れるなよ!!」
大事なことを忘れるとこだった。
危ない危ない。
俺様は一流ビジネスマン。
報酬はきっちり貰ってやらないとな。
今日も俺様の空は眩しいぜ。
ともだちにシェアしよう!