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第45話

この日も僕の手首からハリが抜かれると、サッと傷口が塞がっていった。 毎回、これを見るのは不思議な気分になる。 「先生、今日も輸血有難うございました。」 僕は横を振り返り、先生の横顔にお礼の言葉を述べた。 先生は、ふっと口元を緩める。 「いいよ。また明後日来なさいね。」 「はい。」 先生は手際よく輸血に使った道具類を片付けていく。 僕はベッドの上でそれを見ていた。 「先生、僕に注射の打ち方を教えて貰えませんか?」 先生は手元から視線を外し、僕を見上げる。 「急にどうしたの。」 「そういえばもうすぐ夏休みですよね。そしたら、やっぱり自分で出来るようになっておかないとって。」 「いいけど、自分で注射が出来るようになっても俺とは2日に1回は会わないといけないぞ?」 先生が苦笑する。 僕は何故先生が笑っているのか良くわからない。 無意識に首をかしげる。 「よく考えなさいよ。輸血は薬じゃないんだから鮮度が大事なの。家庭で保存出来るわけ無いでしょ?」 「・・・あ!」 僕はポンと手を打った。 言われてみればそうでした。 「いや、でも、吸血鬼の血は人間の血と違って保存が可能だったりしないんですか?」 先生がクスクス笑っている。 僕、そんなおかしな事言ってないと思うんですけど。 だって治癒能力が高いとか、先生の血の力は強いとか聞かされ続けてる身としては、特別だって思うでしょ? 普通。 「しないよ。」 先生は相変わらずクスクスと笑い続けている。 「・・・へぇ。なんだ、残念ですね。」 僕は吸血鬼の血って、もっと万能だと思っていた。 奇跡的な体験をしている僕としては、保存すらままならないというのは、にわかには信じ難い。 吸血鬼と人間の違いは治癒能力と寿命だけだ、と散々聞かされていたけれど、いざこうして1つ1つ可能な事、不可能な事をおさらいして行くと、本当に対して人間と変わりが無いんだなと思った。 「俺と会うのがそんなに嫌なの?」 僕が不服そうな顔をしていたからだろうか? 冗談交じりに、でも半ば寂しそうに質問された。 僕は慌てて否定する。 「違いますよ。僕はただ、他の先生と違って夏休みは、あまり学校に来ないんだと思ってて・・・。」 「・・・あー。」 先生は右手を顎に添えると、気持ち上を見上げて何か考えているようだった。 暫くしてから、こちらを振り返る。 「じゃ、俺の家に来る?」 「へっ?」 僕は何て返事を返していいかわからず、ポカンとその場で間抜け面を晒してしまった。 「他に用も無いのに学校来るのが面倒くさいんでしょ?じゃ、俺の家に直接来たら?」 何言ってるんだ、この人。 元老院に出かける時、散々学校関係者にバレたらヤバいって言ってませんでしたか。 僕が訝しんでると、先生は続ける。 「保健室で輸血するという医療行為がバレる事の方が俺はよっぽどヤバいね。懲戒免職どころか、刑事告発されちゃう。」 「・・・解りました。伺います。」 神様、僕はこの人に勝てる気がしません。 アーメン。

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