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第48話

驚いたのは先生の方だった。 「王子、何をしてるっ!」 僕は先生を見上げた。 そして深く深く息を吐くと、首を僅かに振るとベッドから降りた。 「すみません。僕には出来そうにありません。」 再び先生は大きく溜息を吐くと、顔を抑えた。 「話を聞かれてから30分は経った。流石にもう時間切れだ。」 先生はそこの椅子に座り込み頭を抱えている。 僕は言った。 「簡単ですよ。誰にも言わないって約束して貰えば良いんです。」 すると今度は、僕を見上げてくる。 「今回はネコにも見られていない。カラスも居ない。居るのはこの保健室にいる僕ら3人だけです。何の問題もありません。」 僕はあんに振り返る。 「ね、あん。僕はあんを信じるよ。」 あんは僕と目が合うと、こくりと頷いた。 「言いません。誰にも。」 先生は相変わらず、頭を抱えたままぼんやりとうなだれて居た。 「分かった。君の提案に従おう。だけど、あんくん。君が誰かに漏らしたら、漏らした相手と今いる俺達3人は始末される。心するように。」 そう言うと、もう一度深く深く息をついた。 「さぁ、荷物を片付けて帰りなさい。」 僕は床に散らばってしまった学用品を掻き集めると鞄に放り込む。 あんも、散らかった鞄や水筒を拾うと、身支度を整えた。 「お世話になりました。終業式の日にまた来ます。」 「失礼しました。」 僕とあんは保健室を後にした。 二人並んで歩く。 まだ部活の終わって居ない生徒が校内を楽しそうにお喋りしながら、パタパタと横切っていく。 僕らは暫く無言だった。 「あん、まだ時間ある?ちょっと話さない?」 「はい。」 僕らは上履きから靴に履き替えると、沢山ある出入り口の1つから、校舎の裏に回った。 僕の学校には中庭があった。 僕らは、日影になっている空いているベンチを探すとそこに座った。 「巻き込んでごめんね。」 僕は横に鞄を下ろすと、あんに謝った。 「いいえ。立ち聞きしてしまった私が悪いんです。」 あんも自分の隣に鞄を下ろすと、正面を向いたまま僕に返事を返した。 それっきり、僕らは口をつぐむ。 話したい事、話さなきゃいけない事、沢山あるはずなのに何も言葉にする事が出来なかった。 暫く沈黙が続く。 最初に沈黙を破ったのはあんだった。 「私に出来ることはありますか?」 僕はじっとあんの横顔を見る。 あんは、こちらに振り向くと力なく笑った。 「私の血は必要になりますか?それとも、やっぱり、私では嫌ですか?」 じっとあんに見つめ返された。 僕はその視線が酷く痛くて、思わず目を逸らしてしまった。 「大丈夫だよ。僕はあんを傷つけたりしないから、安心していて。」 肺に溜まっていた息を吐き切ると、空を見上げた。 今日も1日良い天気だった。 良い天気すぎて体が水分を欲しがっている。 「そうですか。」 あんもまた、空を見上げると呟いた。 「帰ろうか。」 僕らは駅に向かって歩き出した。

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