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第49話

靴を脱ぎ捨てた僕は、一目散に台所に駆け込むと冷蔵庫の扉を開け放った。 引っ手繰るように麦茶の入った水差しを取り出すとグラスに注ぎ入れ、口に運んだ。 僕の喉が音を立てながら、麦茶を流し込んでいく。 「・・・はぁ。」 僕の喉が生き返っていく。 目を閉じると、仄かにあんの残り香が感じられた。 僕はあんを吸血出来なかった。 どう言うわけか、僕の体はあんに全く反応を示さなかった。 僕は緊張し過ぎてたのだろうか? 初めてだと、そういうことが割とよくあるらしい。 それで自信を無くす。 僕の場合は初めてな上に、先生にも見られている状況だった。 普通に考えると、それで余裕で出来る人の方が少ないだろう。 だけど、僕の場合、それだけじゃ無いような気がしてならない。 あんが先生との情事にふけっている時、僕の体ははち切れるほどの反応を示していた。 そんな状況だったから、当然直接あんに触れれば抑えが効かなくなるはずだ。 「・・・せんせい?」 まさかね。 僕の体が反応を示していたのは先生に対してだとしたら。 いや、あり得ない。 僕の好きな人はあんだ。 先生なんか、吸血鬼にされてしまったから、仕方なく一緒に居るだけで好きな訳じゃ・・・。 僕は自分の手首を見つめる。 今日もいつもの様に、先生に触れられ舐められた箇所を。 気づけばあの感覚を思い返していた。 じっとりと、生暖かい先生の舌に舐めとられるあの感覚。 僕は自分の手首に鼻を近づけた。 先生の、あの呼吸と息遣い、舐められるじっとりとした感覚が僕の身体に蘇ってくる。 胸が締め付けられる様にキュンと痛い。 僕の躰が熱く火照り出す。 僕は手に持っていたグラスを乱暴に流しに入れると、自分の部屋に直行した。 バタンと扉を閉めると、乱暴に衣装ケースを扉の前に積み重ねていく。 それから着ていた制服を自分から剥ぎ取ると、ティッシュの箱を握り締めベッドへと飛び乗った。 じっと、自分の手首を見つめ直す。 「先生・・・。」 先生の血が流れている自分の身体。 先生と同じ体温になった自分。 僕の手首には薄っすらと青い血管が浮き出ている。 先生の骨っぽく筋張ったそれとは、少しだけ違う。 「先生・・・。」 僕は自分の手首に唇を落とした。 態とらしく、くちゅっと音をさせる。 先生の舌が絡む音が脳裏に蘇る。 僕の躰は、いつの間にか自分でも気付かぬうちに、先生の温もりをしっかりと覚えてしまっていた。 僕が、あんと先生の情事を遮ったのは、あんを先生に汚されたく無いからじゃ無かったのかもしれない。 僕が遮った本当の理由。 僕はティッシュを自分の一番熱いところへ押し付けた。

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