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第50話

連日快晴だったのが一変して、今日の天気は薄曇りだった。 気温は抑えられているものの、ジメジメとして蒸し暑い。 立っているだけで、全身から嫌な汗が噴き出してきそうな、そんな天気だった。 湿気のお陰なのか喉の調子もまぁまぁ好調で、今日の礼拝も滞りなく行う事が出来た。 みゆきとあんも、いつも通りだと思う。 朝登校してみると、いつもと特に変わらないあんと挨拶を交わした。 彼女の微笑みは、今日も薄紅色だった。 朝の礼拝も無事終わり、生徒全員が礼拝堂を後にするのに続いて、僕も礼拝堂から続く渡り廊下を歩いていた。 なんとなくガラス張りの壁越しに地上を見下ろすと、小さな黒い塊が移動しているのが目に入った。 よく見ると黒猫で、後ろ足を引きずっており、点々と血の跡の様なものが猫の後ろに続いている。 「・・・?」 もしかして、あれは以前一度だけ会った、あの黒猫じゃないだろうか? 僕がじっと観察していると、急に猫が立ち止まりこちらを見上げた。 刹那、目が合う。 僕がはっとしていると、猫は踵を返し草陰の中に消えていった。 間違いなかった。 あの紅い目はあの猫だ。 「おーし、何してるの?一限目始まっちゃうよーっ!」 「あ、すぐ行くっ。」 僕はみゆきに返事をすると、何事も無かったかのようにその場を立ち去った。 またカラスと喧嘩でもしたのだろうか? だけど、あのカラスにそこまでの重症を負わせるほどの攻撃性があるとは思えなかった。 早く手当して貰えるといいけれど。 そして僕は思いついた。 これは先生の所に会いに行く、いい口実なんじゃないか?って事に。 昨日からずっと考えていた。 先生のこと。 自分のこと。 僕が本当に好きなのは、あんなのか?先生なのか?ってこと。 あんの事は本当に可愛いと思う。 凄く素直で、女の子らしい、艶のある子だった。 男だったら大抵のやつは、必ず一度は好きになる。 そんな魅惑的な容姿と器量を持ち合わせた子だ。 僕もご多分に漏れず、あんに一目惚れしたのだと思う。 先生については、対してそこまで考えた事が無かった。 吸血鬼にされたっていう繋がり以外で、意識した事なんてまるで無い。 というか、相手は同性だからこんな風に悩むようになるなんて思ってもみなかった。 だけど、思い起こしてみれば、僕の躰は最初から先生を受け入れていた。 先生に触れられた時の事を思い出すだけで、躰が反応してしまう。 昨日はそれを、自分でしっかりと確認した。 僕にとっては、正直ショックで衝撃的な事実確認になってしまった。 このままでは、僕は二股をかけている悪い奴になってしまう。 それは、今付き合ってるあんに対して、とても失礼な事だと思った。 事務的に先生から輸血の為の一連の行為を受けるのと、輸血に愉しみを見出すのとでは、まるで意味が違うのだ。 僕は、僕の気持ちをきちんと認識しなければならない義務がある。 それを怠ってしまったが為に、無意識の内に誰かを傷付け続けるなんてあってはならない。 先生のこと、もっとしっかり考えてみよう。 僕にとって、先生はどんな存在なんだろう。 憎い相手? 危険な相手? 大切な人? それとも。 昨日今日で、直ぐに答えが出てたら、今、既に悩んでなんかいないだろう。 きっと長期戦になるな、と僕は悟った。 取りあえず、昼休みになったら報告に行ってみよう。

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