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第53話

今日は終業式だった。 今学期も今日で終わり。 つまり、明日から夏休みだ。 周りの皆も浮き足立っていて、教室の中はいつにも増して賑やかだった。 僕も例外なく夏休みが楽しみなうちの一人だ。 「おーしは今年はどっか旅行とか行くの?」 声をかけて来たのはみゆきだ。 彼女も、いつも以上に元気だった。 文字通り生き生きとしている。 「私は家族で温泉旅行ー。たのしみー!お肌つるっつるのもっちもちになるかなぁ?」 僕が答えるより早く、自分の事を嬉しそうにお喋りする。 「あんは?何処か行くの?」 突然話題を振られて、あんははっとした顔をする。 僅かに首を傾げると視線を左上に向ける。 「ええと、祖父のところに御墓参りに数日泊まりで行くくらいでしょうか?毎年の事なので珍しさは無いですけど。」 そしてふわりと微笑む。 きっと大切な家族の行事の1つなんだろうな、と僕は思った。 「今年は皆でプールも行こうねっ!」 みゆきは大はしゃぎだ。 「あと、部長が部員でカラオケに行こって言ってたよ!めっちゃ大人数だけど大丈夫なのかなあ??」 「それ、僕も聞いた。部屋を4部屋くらい借りて持ち回るっぽいよ。毎年恒例みたい。」 「へええ。カラオケなんてすっごいひっさしぶりー。賛美歌ばっか歌ってるけど、先輩達何歌うんだろ?めっちゃ上手そう。」 みゆきの持ち前の明るさに夏休みテンションが追加されて、お喋りが止まりそうになかった。 僕はドゥドゥと馬を嗜めるようにみゆきの背中をぽんぽんと叩いた。 「ほらほら、部活始まっちゃうよ。先輩に怒られる前に行かなきゃ。」 「あ!ほんとだっ!いこう、あん!」 「はいっ。」 部室に着いてみると、先輩達も浮き足立っており、賑やかに今学期最後の部活が始まった。 僕も集中力に欠けていて、賛美歌を歌いながら何処かで半分、先生の事を考えていた。 夏休みに入ったら、2日に一回、先生に会いに行く日が続くのだろうかと。 先生の家はどんなだろうか?部屋はどうだろうか? ぼんやりとそんな事を考えているといつの間にか部活も終わりを迎えていた。 今日は授業もなく終業式のみで午前放課だった。 部活もお昼を前に切り上げられて解散された。 「じゃあ僕、今日も進路指導があるから先に解散するね。お疲れ。」 「おつかれー!またねー!」 部室で昼食を広げ始めている皆の間を抜けて、僕はあんの姿を探した。 保健室に行く前に、あんには言わなければならない事があった。 キョロキョロ見回していると、後ろから声をかけられる。 「あ、あのっ。部活お疲れ様です。」 慌てた様子のあんは、はぁと息をついていた。 あんも僕に用事があったようで、先にあんの用事を尋ねた。 「うん、おつかれ。どうしたの?」 「いえ、あの。」 そう言うと、あんは辺りをキョロキョロ見回す。 それから、人気の無いところへ誘導された。 周りに人がいない事を確認すると、あんは僕に顔を近づけて言った。 「その、私のが必要になったら言ってくださいね。協力しますから。」 あんは僕の耳元でヒソヒソと話した。 それから、では、また。と、元来た廊下を踵を返し戻ろうとする。 僕は慌てて背中に声をかけた。 「あん、待ってっ!」 僕は心臓がズキンとした。 あんには、言わなければいけない事がある。 彼女は足を止め、僕に振り返ると微笑んだのだった。

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