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第57話

ここは何処だ? 僕はベッドの中にいた。 蛍光灯が眩しくて、目を細める。 「っ・・・!」 起き上がろうとした途端、僕の喉に激痛が走った。 呼吸をするだけで、じくじくとした痛みが走る。 「王子。目が覚めた?良かった・・・!」 そこには先生がいて、嬉しそうに微笑んでいる。 あれ? なんで僕寝てるんだっけ。 質問をしようと口を開くが、痛みで上手く声が出ない。 「・・・あの、ここ・・・どこ、ですか?」 「大丈夫。保健室だよ。」 心なしかいつもより優しい声音で先生が囁く。 先生が僕の頭を撫でている。 それがやけに心地よくて、うっとりと目を細めた。 これはあれ? 夢の中? 確信が得られなくて、僕は先生に手を伸ばした。 先生の髪に触れる。 柔らかい。 それから睫毛に触れる。 長くてハリのある艶っぽい睫毛。 それから頬に触れる。 そして、唇に触れる。 やっぱり柔らかい。 僕は、これは夢なんだなと思った。 夢じゃなければ、絶対にこんなに簡単に触れない。 だから、目一杯甘えてみたくなった。 夢じゃなければ出来ないこと。 僕は両手を伸ばして、先生の手を捕まえた。 その捕まえた手を僕まで引き寄せて、ぎゅっと抱き竦めた。 でもそれだけじゃ足りなくて、自分の指を先生の指に絡めさせる。 暖かくて、骨ばってて、少しゴツゴツしている。 僕は右手を絡ませながら、左手で先生の指先や手の甲をふわふわと撫で回した。 僕が指を動かすと、時折擽ったいのか先生の手がもそもそと動く。 僕に反応してくれるのが何故かとっても嬉しくなって、枕のほうまで引き寄せると、僕はそこに顔を埋めた。 ゆっくりと指先を這わせて手首まで移動すると、先生の脈を感じる。 僕は目を瞑って頬に寄せた。 余りにも思い通りになり過ぎて、何の躊躇いもなく先生の手に唇を押し当てた。 軽く触れれば、先生の体温が唇に伝わる。 伝える事が出来なかったけど、僕はやっぱり先生が好きだったんだなと思った。 そう思うと、やっぱりそれだけじゃ物足りなくなってきて、僕は先生をぺろっと舐めた。 先生の腕から手首を抱き竦めながら、手のひらを口元まで引き寄せると、軽くキスをする。 先生の手が僕の顔を覆っている。 僕は夢中になって、唇を這わせながら、先生を舐めていく。 本人に直接伝えられなかったから尚更。 抑えられない気持ちをどうにか昇華させたくて、気づけば必死になっていて、夢中で先生の掌に唇を這わせた。 それから、後悔と寂しさに負けて僕から涙が溢れ出る。 どうしたら伝わっただろうか。 どうしたらもっと早くに自覚が持てただろうか。 今更もう遅いけれど。 夢中で舐めていると、突然先生の手が遠ざかっていった。 僕は、夢でも遂に思い通りにならない時間が来たんだなと悟った。 諦めて深く息を吐いた。 「王子、ストップ。」 先生の声がして、そちらに目を凝らす。 ぼんやりと浮かび上がる先生の顔は、蒸気でも出しそうな程真っ赤に染まっている。 あぁ、僕、また怒られるみたい。 先生はさっきまで僕が遊んでいたほうの手で口元を覆うと、視線が空を彷徨っているようだった。 それから、ぽそりと呟いた。 「それ以上は、俺も我慢出来なくなるから。」 「我慢?」 僕は質問する。 我慢なんてするつもりは更々なかった僕は、再び両手を伸ばすと先生の手を捕まえた。 ちょっとくらい怒られてもいいや、と思っていた。 それよりも、ずっと触れていたかった。 離すのが惜しかった。 捕まえた先生の手を再びぺろぺろと舐め始める。 するとまた、同じように手を引っ込められた。 なんでかなぁ。 もっともっと、まだ僕には全然足りてないんだけど。 再び先生の声がする。 今度こそ本当に怒っているようだった。 「我慢出来なくなるって言ったでしょ。」 そう言うと、先生は僕の手を捕まえて組み直される。 両の手を先生の左右の手にそれぞれ絡め取られて、シーツの上に沈められていく。 先生の顔が間近に迫って来て、僕を見つめてくる。 僕もそんな先生の瞳をじっと見つめ返した。 恥ずかしさなんて全く無かった。 僕の事を気にして、僕の事を見てくれる事が嬉しくて仕方なかった。 生前もこんな風に素直に思う事が出来たら、毎日が幸せだったんだろうなと思った。 「キスしたくなっちゃうでしょ。」 先生の揺れる瞳が僕を捕まえたまま離さない。 僕もじっと見つめ続ける。 そして、素直に欲望を伝える。 「キス、したい。」 言葉を発すると痛みがじくじくと広がる。 先生は僕の発言に面食らったようで、一瞬顔を退く。 けどそれも本当に一瞬で、僕の瞳を見つめながら徐々に距離を詰めてくる。 僕はその視線を逸らす事が出来なくて先生を見つめ続ける。 先生の息を肌で感じる。 僕の唇に柔らかいものが触れた。 綺麗な目だった。

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