58 / 177

第58話

僕の唇に軽く触れた後、暫くしてから先生の顔が遠のいていった。 「何で目閉じないの?」 先生は恥ずかしそうに、横を向きながら問いかけてくる。 何でそんなこと聞くんだろう? そんな事考えなかった。 「先生のこと、・・・ずっと、見てたいから。」 目を閉じてる時間が勿体無いと感じるくらいに、僕はずっと目を離したく無かった。 夢なんだから、遠慮するなんて勿体無いでしょ? 好きな人の事、もっともっと見ていたいと思うのはきっと当然の欲求のはず。 僕が未だに視線を逸らさず、先生をじっと見つめ続けていると、手のひらが降りて来て遮られてしまった。 「先生、見えな・・・」 「ちょっと、目、閉じてなさい。」 僕は言われた通り目を閉じた。 とても残念だけど、先生が言うんだから仕方なく従う。 僕の顔から手が離れる。 するとまた、僕の手に先生の手が絡む。 その感覚が嬉しくて、気恥ずかしくて僕は指を互い違いに動かしてそれを確かめる。 先生の柔らかな手の温もり。 ずっとこうして、離したくないな、と僕は思った。 そんな事を考えていると、再び唇に何かが触れた。 温かくてとても柔らかい。 きっと目を開ければ、先生の顔がそこにあるのだろう。 だけど、僕は言われた通り目を開けたくなる衝動をじっと我慢した。 先生の唇が小刻みに動くのが、僕に伝わってくる。 軽く啄むようにふわふわと移動し甘噛みされる。 僕はその動きに合わせて、先生の上唇を啄ばみ吸い付く。 お互いの呼吸が混じり合ってゆく。 熱く湿り気を帯びた先生の唇の動きがより一層激しくなる。 僕も夢中で先生を貪り始める。 半開きになった口内に、どちらからとも無く、熱くしっとりとしたものが侵入してくる。 僕はそれを夢中で絡め取った。 それから、先生の歯を舐め回す。 再び先生が僕を絡めとり、お互いがお互いを蹂躙しあう。 僕は息をするのも忘れて、只管、先生を貪り続けた。 お互いの粘液が混じり合い、とろけあい、お互いに乾き、お互いに満たされてゆく。 吸って吸われて、痺れ痺れさせ、侵し侵される。 それらは、僕が今まで体験したことの無いような心地よさを与えてくれる。 僕は口内を先生で満たされ、心もまた満たされていっているのを感じていた。 だけど、僕は貪欲で、まだまだ全然足りなくて先生を欲して抑えられない。 頭の中は真っ白で、先生の事しか考えられなくなっていて、口から得られる感覚だけが僕のなかに敏感に染みていった。 苦しくて、気持ちよくて、嬉しくて、息が続かなくて、その全てが混じり合って、僕の心の奥の方に深く深く染み渡ってゆく。 むず痒くて、僕の体は火照っていった。 ふわふわとのぼせそうになりながら、先生を侵し貪り続けた。 先生もまた、それに応えるように僕を侵し貪ってくる。 どの位の時間、お互いがお互いを貪ったのだろう? 僕の口は痺れて感覚も鈍くなり、何が起きているのか分からなくなっていて、思うように反応を返せなくなった頃、やっと先生の唇が離れていった。 僕は名残惜しさを感じながら瞼を持ち上げた。 すると向こうに先生の顔を捉えた。 暫くの間、お互いにじっと見つめ合う。 「元気になったか?」 先生は僕に尋ねた。

ともだちにシェアしよう!