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第60話

完全にやらかした僕は、逃げ場がなくて途方に暮れていた。 うわー、気付かなければ良かった。 ずっと夢のままにしておけば良かった。 どうしよう。 僕は先生にどう思われているのか、気になり始めて仕方なかった。 僕は先生の事が好きだ。 これはもう、自信を持って言える。 だけど、先生は僕のことどう思ってるんだろう? 僕は先生に、息子としか言われてない。 好きだと言われた訳じゃない。 責任があるからと、仕方なく僕の世話を焼いてるとしたらどうしよう。 仕方なく息子だからと、僕を受け入れようとしていたらどうしよう。 だとしたら、僕の行為は最悪だった。 硬直していると、再び先生に頭をポンポンと撫でられた。 嫌われてる訳じゃない。 だけど、どうやってその事を確かめよう? 僕は意を決して、伝えたかった事を口にした。 「先生、僕の話を聞いてください。」 「どしたの。」 心臓がドキドキする。 「僕は先生が好きです。」 「うん。」 何の動揺も躊躇いも無く、ナチュラルに返事をされる。 余りにもごく自然に、それが当たり前とでも言うように返事をされて、逆に僕が動揺し緊張した。 「あの、それで・・・」 ここから何て切り出そう。 ストレートに聞くしか無いだろうか。 「それで、先生は僕の事、どう思ってますか。」 一瞬口籠もったが、思い切って尋ねてみることにした。 だけど、僕は先生の機嫌を損ねてしまった。 「どう思われてると思ってるの。」 「えっ。」 少しばかり不機嫌そうに、質問を質問で返されてしまう。 「わかんないのか。じゃ、秘密。」 「ええっ。」 僕は慌てた。 秘密と言われてしまっては、これ以上聞き出せそうに無い。 僕は肩を落とし、俯いた。 不安がどんどん大きくなっていく。 僕の事を別に好きじゃなかったら。 息子の我儘に付き合ってあげてるだけだとしたら。 胃がずしんと重くなり、体が冷えて動けない。 「本当にわかんないの?」 先生は溜息を吐いて僕に問う。 「すみません。」 僕は謝るだけで精一杯で、ほかに何も言えなくなっていた。 再び大きな溜息が僕を襲う。 僕はじっと身を固めて縮こまる。 突然、先生の影が僕の視界を遮ると、先生の柔らかな唇が僕の唇に触れた。 「まだわかんないの?」 「へ。」 至近距離で先生の黒い瞳に見つめられたまま、再び問われる。 僕は相変わらず動けなくて、ただ先生を見つめ返す事しか出来なかった。 すると、更に再び唇を重ねられる。 「・・・っふ。」 先程よりも少し強く押し付けられて、思わず僕から息が漏れた。 「わかった?」 「えっと、その。」 僕はなんて返していいか分からず、戸惑いがちに返事をする。 すると更に追い討ちをかけるように、口を塞がれる。 「・・・っんぐ。」 今度は、より強く塞がれて更に大きく息が漏れる。 「わかった?」 「え、あの、まっ・・・ぅぷっ。」 言い終わらないうちに、更に勢いも付けられて思い切り唇を奪われる。 「わかったの?」 相変わらず不機嫌そうに、先生が聞いてくる。 これは、つまり、僕の希望通りだって思っていいのだろうかと、考えつつ何も答えられない僕に、更にキスを重ねてくる。 「・・・んんっ。」 「まだわかんないの?わかったの?」 不機嫌に聞いてくる先生に、僕は曖昧に返事をする。 「えっと、多分。・・・っぷ。」 更に再び唇を奪われて、僕は朦朧とし始めてくる。 「わかるまで、何度でもするからね。多分なんて返事じゃ俺は譲らないから。」 「わかった、先生。せんせい、わかったから。ごめんなさ・・・んぐっ。」 僕は再び唇を奪われて、頭の中がぼんやりとしていた。 先生の唇が、柔らかくて、甘くて、温かくて、湿っていて、熱くて、むせ返るほどの熱に僕は溶かされてゆく。 そして、僕は再び夢の中に呑まれていった。

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