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第64話

全く関心がないと言えば語弊があるが、先生の事は同性で吸血鬼だという、表面上の事実以上のことを見ようとはしなかった。 僕の中では、同性なんて恋愛対象としてあり得なかったし、吸血鬼とお近付きになりたいだなんて思わなかった。 僕にとっては恐怖と嫌悪の対象だった。 先生を人だと思ってはいなかった。 当たり前だけど、先生はいつでも保健室に居た。 僕が何処で何をしようとも過干渉な事は一切なかった。 いつでも僕の意思が尊重された。 先生は保健室で僕のことを待っているだけだった。 僕が行くと必ず「いらっしゃい。」ではなく「おかえり。」と言われる。 でも、僕はその意味を深く考えたりはしなかった。 今頃になってやっと解ったのは、僕は最初から先生に受け容れられた存在だったということ。 僕の自由を奪うような事はしなかったということ。 僕が帰ってくる場所をいつでも準備していたということ。 当たり前だけど、当たり前じゃ無かったこと。 僕は自分の知らないところで気付かぬうちに安心を得ていた。 そしてそれに気付いてしまった。 そしたら、急にそれが大切になった。 何故僕を受け入れるのか気になって仕方がなくなった。 何故僕はそんなに大切にされるのか、知りたくなった。 先生に対して興味が次々と沸き起こった。 そして気付いたら、先生の事が好きになってる自分がいた。 だけど、相手は同性で男だろ、そう思う自分が居た。 僕が問うと、乗り越えるんじゃない、受け入れるんだと先生は言った。 自分の気持ちを受け入れる事を教えられた。 先生の事を好きだと、正面から認める事。 僕の心から腫れ物が落ちた瞬間だった。 そして、僕は自分を試した。 先生を真っ直ぐに見つめた。 先生に顔を近づけた。 そしたら僕は、キスしたい衝動を抑える事に必死になってた。 それほどに、先生の事が好きになっていたんだと自覚した。 僕は震えていて、先生の顔から遠退くのに必死にならないといけなかった。 そんな僕に、先生は言ったのだ。 「キスしたいの?」 と。 僕は全身が震えていた。 息が整わなかった。 心臓が苦しくて仕方なかった。 僕は気付いたら泣きながら、はいと答えてた。 そんな僕に、先生は微笑むのだ。 「いいよ。」 と。 僕は震えていて、奥歯がガチガチと鳴っていた。 自分の心臓の音が全身で響いた。 僕は怯えながら、自分の欲望に忠実に先生の顔に唇を運んだ。 僕は震えが止まらなくて、滅茶苦茶に下手くそなキスだった。 だけど、先生はそんな僕の頭を優しく撫でるんだ。 僕はどうしていいかわからずに、その場で泣き崩れた。 先生の膝の上で、声をあげてわんわんと泣いた。 その間も、ずっと僕の頭を先生は優しく撫で続けていた。

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