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第72話
「墓場まで持っていくつもりだったけれど、こうなったからには、君には全部教えるよ。」
先生は僕の頭を優しく撫で付けた。
「王子が見てたのは、俺の夢だよ。俺の夢が、君の夢に入り込んでたんだ。誤解を招くといけないから先に言うけど、俺も最初は気付かなかった。」
先生は僕の頭を撫で付けながら続ける。
「俺が、俺の夢を君と共有していたと気付いたのは、王子の夢が俺に入り込んできて、それに気付いたからだよ。」
「僕の夢?」
「君が彼女とエッチした夢を見た事があっただろう?覚えてるかい。実はアレ、俺も見たんだよ。」
「・・・えっ。」
「悪かった。俺も知らなかったんだ。見ようと思って見た訳じゃない。すまない。」
「えっ、ちょっと、どういう意味ですか?」
僕は軽く混乱していた。
あんな卑猥な夢を、先生と共有してたの?!
先生には、あんとエッチする夢を見た事があるなんて、絶対知られたくなかったのに・・・。
でも、知られてた。
先生の言ってる事は嘘じゃなさそうだった。
今、僕の好きな人は先生なのに、完全にバレてしまっていて、軽く死にたくなった。
言い訳出来なくて、苦しい。
「本当に申し訳ない。俺も知らなかったんだ。きっと血の盟約の副作用だろうと思う。気付いてから過去の文献を漁って調べ回ったんだが、何処にも記述が無くてね。きっと、過去に盟約を交わした彼らも、人には知られたくない事だったのだろう。もしくは、二人だけの秘密にしたかったのか。そんな危険な能力が他者にバレたら、自分達に危害が及ぶ恐れがあるからな。」
「えっ、ちょっと待って下さい。もしかして、僕の見た夢はあんにもバレてますか?!」
先生は顎に手を添えると考え込んだ。
「さあ、どうだろうね。血が介しているとなると、少量でも可能性がないとは断言する事が出来ないな。見たのは、あんくんに刺される前か後か、それはわかるかい?」
僕も考え込んでしまった。
夢を見たのは映画を見る前だった気がする。
ってことはギリギリセーフ?
「多分刺される前です。」
「それなら、大丈夫だね。あんくんは知らないよ。」
僕は胸を撫で下ろした。
あんにまで知られてたら、入水してたところだ。
だけど、先生にはバレてる事実は変わらなくて痛い。
「僕、その時はあんの事しか考えてなくて・・・ごめんなさい。」
「いいよ、気にするな。それより、俺の夢が毎日毎日入り込んで来て君は大変だったろう・・・。好きでも無い男に毎日抱かれ続けて。済まなかったね。」
僕はその時の事を思い返していた。
確かに毎日うなされていた。
その時は先生の事を、好きだという自覚は無かった。
だけど、僕の躰だけは毎日素直に喜びを表現していた。
「そうでもありませんよ。僕は毎日、先生に夢でイかされ続けてましたから。気持ちよかったって言うのは嘘じゃ無いんです。先生とエッチする夢を見た後は、起きたら必ず夢精していました。」
僕は言葉を付け足した。
「ちなみに、あんとのエッチの夢の後は夢精してません。だから、先生とのエッチが気持ちよかったって言うのは本当なんです。」
僕は再び先生にキツく抱き竦められていた。
先生の顔は僕の肩に押し付けられていて、表情を窺い知ることは出来ない。
だけど肩が小刻みに震えていて、僕は背中を優しく撫でた。
僕は続ける。
「現実が恐ろしいなら、また夢の中で僕とエッチして下さい。そしたら、前よりもっと、僕のこと滅茶苦茶に食べて下さい。今度は僕も全力で応えます。僕の躰に飽きるまで、沢山、先生の愛を注ぎ入れて下さい。今の僕の心と躰は先生を欲しているんです。」
あの夢が先生の夢なら、この人はずっと自分の気持ちを押し殺して、僕だけを優先していた事になる。
パタリと夢を見なくなったのも、この人は自分の思いを夢ですら表現する事を辞めたからなのだろう。
その事実がまた、僕を切なくさせた。
「夢の中でいいから、僕とエッチして下さい。一緒に気持ちよくなって下さい。」
僕は切々と言葉をかけた。
この人の心を、僕が大事に包みたかった。
僕の心はもう、先生だけのものだから。
無知な僕は、それでも方法を考える。
僕の心を伝える方法を。
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