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第78話
翌日、僕は朝から保健室に来ていた。
もちろん、先生に会いたかったから。きゅるん。
な訳がない。
見張ってないと、盗撮し兼ねなかったからだ。
この人を僕が止めずに、誰が止めるんだ。
半ばそんな使命を与えられた気になって、夏休みのプリント類を持参して、保健室に缶詰になっている。
先生は朝から忙しく動き回っていた。
保健室の備品のチェックから、清掃、洗濯、あらゆる雑務をこなしていて、僕は視線が追いつかない。
保健室の出入りも激しいものだから僕は仕方なく強行手段に出る。
「先生、スマホ貸して。」
「どうした?」
「帰る時間になったら返しますから。」
「もしかして、信用されてない?」
僕はジト目で話す。
「そうですね。今日は唯一、男子の運動部であるサッカー部が活動してますからね。」
すると、先生は渋々スマホを取り出して僕に手渡した。
僕はそれを受け取り、チェックしようとホームボタンを押すもロックが掛かっている。
嫌な予感しかしない。
「先生、ロック外して中身見せてください。」
「・・・はい。」
先生に手渡されて、写真をチェックする。
昨日より、写真の枚数が増えている。
「先生、これ何ですか。」
僕は一枚の写真を先生に突きつけた。
「サッカー部の男子生徒。」
先生は明後日の方を向きながら答えた。
スマホには、一人の男子生徒が半袖体操着姿で写っている。
っていうか、僕のクラスメイト。
あんなに出入りが激しかったのはこの為か。
「削除してください。」
先生は涙目だ。
「裸じゃないだろう。王子君、この通り。」
先生が両手を合わせて、椅子に座っている僕に向かって頭を下げてくる。
なにこれ、先生すっごいカッコ悪いんですけど。
まじでやめて欲しい。
「盗撮は盗撮です。だって本人、写真撮られてる事知らないでしょう?一声掛けたんですか?削除してください。」
僕は溜息をついた。
先生は僕からスマホを受け取ると、渋々削除を始める。
僕は思った。
この人のは、もはやビョーキだと思う。
「先生、そんなに写真が欲しいなら、何で理事長に掛け合って、学校HP用のサッカー部の写真を撮らせて貰えないか段取らないんですか。その方が学校の為にもなりますよ。近頃生徒が集まらなくて共学にして男子生徒も募集始めたばかりなんですから。理事長だって、それならと二つ返事でOKしてくれるんじゃないですか?」
見る間に先生の顔に生気が戻ってくる。
「そうだな。君は頭がいいな。早速掛け合ってみよう。ありがとう。」
先生はウキウキとしながら仕事に戻った。
僕は先生の悪趣味の片棒を担いだみたいで罪悪感を感じたけれど、盗撮するよりは幾分かマシだと言い聞かせた。
ごめん、サッカー部。
しばらくしてから、先生が再び僕の所に戻って来てウキウキした調子で話しかけてきた。
「そういえば、今度の土日に陸上部の大会があるんだ。それに行こうと思うんだが、良いだろうか?」
「いいですけど、うちの学校、女子部員しか入部してな・・・あ!」
僕はしまったと思った。
この人、うちの生徒の応援が目的じゃない。
他校の陸上男子の写真を撮ろうとしてる。
しかも大会だから、違法とも言えない。
先生を見ると、目をキラキラと輝かせている。
「いいんじゃないですか?僕は行きませんけど。」
そして、僕は念を押した。
「でもロッカールームに立ち入っちゃいけませんからね。あ・く・ま・で『応援』ですからね。応援席から撮って下さいね。分かりましたか。」
「はい。」
先生はいい返事をして、再び仕事に戻っていった。
おかしい。
僕はもっと包容力があり、決断力と判断力もあり、真面目で、憧れの大人カッコいい先生を好きになったんじゃ無かったのか。
そんな先生像は、今まさにガラガラと音を立てて崩れていった。
それはもう、ガラガラと。
ほんと、これ誰だよ。
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