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第80話
僕らは再び唇を重ね合わせていた。
だけど、僕はあまり集中してなくて、周りで物音がしないか聞き耳を立てている。
さっきの事があったせいで、雰囲気ぶち壊されてしまい、そう簡単には持ち直せない。
それに、ネコが来ないか心配でもあった。
先生もそれに気付いたのが、再び顔を僕から離す。
「どうした。集中出来ない?」
「そうですね。やっぱりリスクがあって安心出来ませんから。」
そして、僕は言葉を繋げる。
「すみません。先生の助けになればと思っていたんですが、お役に立てなくて。」
僕は顔を背けた。
すると先生に右頬に唇を落される。
「大丈夫。十分助かってるよ。ありがとう。」
それから、僕の目の前に右手に持った試験管をチラつかせる。
中には白濁した液体がしっかり収まっている。
「へ。」
僕はびっくりして先生を見た。
クツクツと薄ら笑いを浮かべている。
そして僕の耳に顔を近づけてきた。
先生が小声で囁く。
「最初の激しいキスでね。凄く、気持ち良かった。ありがとう。」
「・・・っへ。」
僕は腰が抜けるかと思った。
その声は駄目。
全身に鳥肌が立った。
か、かなりズルくないですか。先生。
僕は自分の心臓がきゅぅと締め付けられるのを感じた。
だめ、だめ。
ここは学校だから。
僕はキスしたくなる衝動を必死に押さえ込んだ。
いや、キスだけじゃない。
この人、伊達に71年間吸血鬼をやってない。
駄目、ちょっと動けない。
すると再び先生に唇を落された。
僕は全く何も考えられなくなっていて、先生にされるがまま、貪られた。
僕は個室の壁に両手を突っ張って、なんとかその場に立ち続けた。
ぼうっとして、まるで夢を見ているようで何も考えられない。
「カラスに渡してくるから。」
僕の耳元で囁くと、先生は動けない僕を残して個室を出て行き姿が見えなくなった。
カラカラと窓を開ける音がする。
すると、直ぐにバサバサと羽音がして、同時にカチカチと爪の鳴る音も響いた。
「遅かったじゃねーか。いつもは直ぐに出てくるのによ。」
「悪いね。今日はなかなか時間が掛かってしまってね。って、うん?カラス見てたのか?」
「あったり前じゃねーか。俺は仕事第一主義のエリートだぞ。木に止まってじっと待つなんてお手の物よ。ボウズもそこに居るのは知ってるぜ。」
「・・・研究所には俺と王子が同じ個室にいた事を秘密にしてくれないか?」
「いいとも。任せろ。」
「ありがとう。助かるよ。お礼はまた何か考えておくよ。」
「楽しみにしてるぜ。そうだ、伝言があるんだ。『坂口安子が脱走した。また中原老中は5日前から消息不明。よって特別警戒令を発令する。』だとよ。じゃあな。」
バサバサと羽音がしたかと思うと急に静かになった。
今、カラスなんて言ってた?
僕らの事は完全に見られてた。
って、それだけじゃ無い。
あんが逃亡中?
僕はまた命を狙われるのか?
さっきまで火照っていた身体が、一気に凍りついた。
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