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第83話
翌日も何故か僕は保健室に居た。
朝から携帯が鳴って、誰だろうと画面を見たら先生の名前だった。
僕は寝ぼけながら電話に出る。
「おはようございまぁ。こんな朝早くからどうしたんですか。」
「おはよう。今から迎えにいくから7時迄には準備しておいて。」
7時?今何時・・・。
「せんせ。何でそんなに急ぐんですか。何処か行くんですか?あと、今何時・・・。夏休みなんだしもう少し・・・。」
「いいから支度して。ちゃんと朝御飯食べなさいね。行き先は学校の保健室。7時にいつものコンビ二で待ってるから。じゃあね。」
そして通話を切られた。
えええ、何それ。
断り切れずに通話を切られてしまい、仕方なくもそもそと起き出した。
時計を見ると6時だった。
夏休みなのに、これじゃいつもと変わらない。
一応折り返してみたけれど、先生は通話に出ない。
勝手に全部決めてしまって、断る隙がなくてちょっと狡いなぁ、と思いながら仕方なく支度をした。
7時にコンビ二に着くと、既に先生は来ていて車に乗るように促される。
うーん。
学校に行くなら、一緒に車で登校しちゃマズいんじゃないかなぁ。
一応先生に確認すると、今日は特別だからと言っていた。
何だろ、特別って。
学校に着くと、僕はそのまま保健室に向かう。
先生は職員室にタイムカードを押す為と、鍵を取りに行く為に向かった。
僕はぼんやり廊下で待っていた。
僕の学校はたいして部活に力を入れていないから、校舎には殆ど人が居なかった。
基本的に生徒が自主的にやるだけなので、やる気のある陸上部員と弓道部員、ダンス部員くらいしか学校には来ていない。
その為、朝早い今の時間は一階には誰も居なくて廊下がガランと一直線に突き抜けている。
しばらくそんな廊下を見ていると先生が現れて、白衣をはためかせながら小走りで戻って来た。
「待たせて悪いね。」
ガチャガチャと鍵を回し、保健室を開ける。
どうぞと言われ、保健室に入ると扉を開けガラガラと閉める。
そして僕は手を握られて、ベッドまで誘導され、そのまま抱き締められてしまった。
「えっ、ちょっと先生。どうしたんですか。」
「いいんだよ。俺がこうしたいからこうするの。」
「はぁ。」
僕は訳が分からないまま、先生に抱きしめられ続ける。
それからキスされる。
「んっ・・・。先生、ここ学校ですよ。あんまり激しいことしちゃ・・・んっ。」
息をする隙も与えられず、唇をぴったりと密着されてキスし続けられる。
僕は息が出来なくて、思わず引き剥がした。
「・・・ぷはっ。先生、どうしたんですか。こんな事してて、仕事は大丈夫なんですか。」
「大丈夫だよ。君は気にしなくていいよ。だからほら、もっとこっちおいで。」
僕が離れようとすると、引き戻される。
そして、僕を抱き締めたまま離そうとしない。
この人こんなに甘えん坊だったっけ?
僕が手を伸ばして先生を撫でようとすると、その手を繋がれて降ろされてしまい、再び僕は先生の腕の中にすっぽりと収められる。
抱き付きたいだけなのだろうか?
何だかよく分からないでいると、カーテンをシャッと閉めて、僕ら二人をベッドの中に隔離してしまった。
それから、僕をしきりに膝の上に乗せようとしてくる。
「先生、何がしたいんですか。」
「何って、君をだっこ。」
「へ?」
「いいからおいで。」
僕が何か言うより早く、先生に引き寄せられてしまい僕の頭を自分の胸に押し当ててくる。
僕は仕方なく先生の気の済むように、先生の間に収まり心臓の音を聞く。
いつも聞いてる先生の音がする。
僕がもぞもぞと身動ぐと、先生は僕の肩を抱き、しきりに頭を撫でている。
僕は先生の意図が分からないまま、諦めて目を伏せた。
先生の心臓の音を聞いていると眠くなってくる。
なんだか気持ち良くなってきてしまって、先生に顔をすり寄せた。
僕が目を覚ますと、僕の横では先生が仕事をしていた。
いつものデスクじゃなくて、ぴったり横についている。
「あれ、先生。そこで何してるんですか?」
「おはよう。大丈夫?眠れた?」
「はぁ。今何時ですか?」
「8時半だよ。」
僕は大体30分くらい寝ていたらしい。
先生の心臓がとくとくと響いて気持ち良かった気がする。
それにしても、何でこの人ここで仕事してるんだろ。
「先生、向こうのデスクでやらないんですか?」
「いいんだよ。俺が王子と一緒に居たいの。」
そう言うと、僕のおでこにキスしてくる。
そこでようやく気付いた。
僕、もしかしてお子様扱いされてない?
「先生、僕、子供じゃ無いんですけど。」
僕が少し不機嫌そうにしてみせると、先生が慌てだした。
「すまない。嫌だった?」
「いえ、嫌とは違いますけど、なんというか今日の先生はベタベタし過ぎじゃ無いですか?・・・嫌では無いですけど。」
先生は少し首をひねる。
「嫌じゃ無いならいいだろう?」
そう言われればそうだけれど、なんだか先生の様子がちょっと変だ。
酷く優しくて、まるで腫れ物を扱うみたいな。
えっ。
「先生、僕の事、腫れ物扱いしてませんか?」
「そんな訳ないだろう。俺が大事にしたいだけだよ。」
僕は再び抱き締められた。
やっぱり今日の先生は変。
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