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第88話

やがて僕は、先生のオカズになる目的を忘れて、先生の手に夢中になっていった。 先生は片手に持ったスマホを僕に向けたまま、じっとして動かない。 僕は、先生の手を両手で受けながら、そうっと唇を這わせ続ける。 手の甲を天に向け、中指を登っては降りた。 全ての指も同じように、登っては降りてゆく。 それから顔をくぐらせて、先生の手の下に潜り込んだ。 僕は自分の顔の上に先生の掌を置くと、目を瞑りながら先生にキスを続ける。 僕は先生の手がある天井を見上げながら、唇を這わせた。 たまに僕の息が漏れて、くぐもった声に変わる。 僕は見上げたまま、僕の体を反らせてゆく。 先生の掌を僕の顔に軽く乗せられているだけで、僕は全身が包まれているような錯覚を起こす。 僕が体を反らせる為に、僕の体から袖を通した筈のシャツが重力に従い流れ落ちてゆく。 薄い体が先生の前で露わになる。 先生。 僕はどうですか。 先生のオカズになる事は出来ますか。 僕はゆっくりと顔を振る。 すると先生の手は、僕の顔から滑り落ち、僕の首の上に降りた。 締められている訳ではないのに、命を握られる感覚に陶酔する。 先生は絶対に僕の事を殺さないという安心があってこそ、得られる事の出来る快感。 先生が僕の首に重力を預け、その僅かな重みだけで、僕の心を容易く縛り上げていってしまう。 僕は気持ち良さのせいで、僅かにむせ返る。 それから、溜息が漏れてゆく。 そして大きく息を吸い込む。 僕は僕が気持ち良くなる事に、更に集中してゆく。 先生の左手を、僕の右手でゆっくりと喉からずらし、反り返る僕の首筋をなぞらせた。 再び僕はクラクラし始める。 大きく溜息を吐きながら、先生の手を僕の体に這わせた。 「先生、僕を、撮って。」 僕は遂に自分からお願いした。 「エッチにやらしい僕を、撮ってよ。」 本来の目的は先生の欲望を満たす為に始めた筈なのに、いつの間にか、僕の為に撮って欲しいと懇願している。 僕は僕の欲望には勝てなかった。 いつでも先生を求めてしまう。 先生の心を求めてしまう。 僕の欲望は天井を知らない。 愛されたい、求められたいという欲望が、先生を愛し求めてゆく。 僕の愛と呼ぶものは、恐らく先生の為にあるものでは無いだだろう。 それはきっと、僕自身の為の愛。 でも、僕はまだそれしか知らない。 僕は先生が欲しいと願うであろうものを、もう一度よく考えを巡らせてみる。 あ、そっか。 「先生。今日から僕を盗撮して下さい。」 僕は体を後ろに反らせたまま、先生を見上げた。 相変わらずスマホを構えたまま、身じろぎ一つしない。 「先生、僕の知らない、気づかない間に僕を沢山撮って下さい。僕が許可します。だから、盗撮であって盗撮じゃない。僕と『盗撮ごっこ』をして下さい。これならどうですか?僕を先生のオカズにしてくれますか?」 僕が言い終わると、先生の顔が降りてきて、僕の視界を塞いだ。 それから、耳元でピッという機械音が鳴る。 ん? 今の音、何の音? 僕から顔が離れていくと、先生が言った。 「君の官能的な姿、沢山撮れたよ。ありがとう。あと、盗撮ごっこ、今から開始だな。」 先生は楽しそうにくつくつと笑っている。 「へ?」 撮れたの? でもシャッター音全然しなかったけど。 先生が悪戯っぽく笑っている。 「全部動画で撮ってたよ。俺の大切な人の妖艶な姿、一瞬たりとも見逃せないでしょ。ありがとう。」 「へ?!」 この後、僕が先生のスマホを取り上げようとしたのは言うまでもない。 が、取り上げたところでロックを掛けられててどうにも出来なかった。 あと、今日から僕は先生に盗撮される事が確定した。 僕が望んだけど、いいんだけど、僕は今から既に後悔しています。 最近の僕は、先生の熱に触れると自分の理性が効きません。

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