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第98話
「えっ、いや。・・・えっ、え、そのっ。」
僕は何をどう話せばいいのか分からず、しどろもどろ受け答える。
あんは、そんな僕の様子が煮え切らないらしく、再び不機嫌になる。
「しゃんとしなさいよ。ほら、何処まで進んでるの?」
「どこ、何処までって、ええっ。いや、それは、・・・あの、この事、元老院にはっ。」
「解ってるわよ。捕まらなければ話す機会なんて無いわ。宜しくて?」
「そっ、そうだね。うん。」
「それにね。あなたは知らないでしょうけど、江戸時代なんて、衆道なんて普通の事だったのよ。別に驚いたりしないわ。特にあなたくらいの年頃が一番華やかで、とっても良い時期なのよ?」
「へっ、はぁ・・・??」
しゅ、衆道?
・・・なにそれ?
華やか?
「で?どうなのよ?」
「ちょ、ちょ、待って、待って。いや、仮に僕が先生の事を好きだと仮定して、先生と両想いだなんて一言も・・・。」
「違う訳ないわよ。私の血液の毒を無効化出来たって事が何よりの証拠みたいなものだもの。だから、私はあなたに近づいたの。私より知識の浅いあなたが、私を出し抜ける訳無いでしょう?観念なさい。さっきも言ったけど、私の血を注いだ事はまだ誰にも言ってないわ。だから元老院もまだ知らない。安心なさい。」
僕の頭の中は、キャパが超えそうになっていた。
吸血鬼界の新しい禁忌の話なんかが出てきて、あんの事もあるし、よく分からないし、いっぱいいっぱいだ。
それに、そうは言ってもあんの事を信用して話しても良いものだろうか。
一度、先生に相談してから、何を何処まで話すか決めた方がよさ・・・。
「覚悟決めて話しなさい。」
ひいい。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
どうしようううぁぁあ。
あんの鋭い視線が痛い。怖いです。
「私だって、これから毎日のこの家で缶詰生活だもの。つまんないわ。娯楽の一つもあってもいいじゃない?」
ぼ、僕は玩具か何かなんでしょうか・・・。
僕は額に嫌な汗を感じていた。
全身から、あぶら汗が沸き立つ気分だ。
あんがため息をついた。
「そう、仕方ないわね。あなたが認めないというなら、私にも太宰くんを頂く権利はあるわよね?二人暮らしになるんだもの。楽しまなくっちゃ。」
「へ?」
「だぁかぁらぁ、あなたが太宰くんの事、好きでも両想いでも無いって、否認するなら、私と太宰くんが男女の仲になってもあなたには関係ないでしょう?いいわよね?別に。」
あんは楽しそうにコロコロと笑った。
「駄目っ!それは駄目ですっ!!」
僕は両手を握り締め、必死に抗議する。
僕があんと競り合う事になったら、いくら先生が女性に興味が無いと解っていたとしても、勝てる気がしない。
っていうか、勝てない。
確実に負ける。
そのくらい、あんの容姿は完璧過ぎる。
きっと男装したら、超イケメンになる・・・。
僕に勝てる要素が見当たりません。無理!
「ごめんなさい。あん、それだけはしないで。許してください。」
僕は涙目で訴える。
「へぇ、何故かしら?だって、あなたは太宰くんとは何でも無いのでしょう?なら良いじゃない。」
あんは、にっこりと微笑んだ。
普通なら、素晴らしい美貌を備えたあんの微笑みに誰もが心酔するだろう。
だけど、今の僕には凶悪な笑みにしか見えない。
続け様にあんは爆弾を落とした。
「ちなみに、私の吸血相手は女の子なのよ?男装したら私を女だと気付いた方は居なかったし、女性の姿でも吸えなかった相手は居なかったわ。私も見た目はまだ若いし、高校生が好きな太宰くんは、あなたと、男装した私、果たしてどちらを選ぶでしょうね?」
僕は涙目で、あんに平伏した。
「あん、ごめんなさい。僕は先生が好きです。先生を愛しています。だから取らないでください。この通りです。」
見た目天使の中身悪魔な、この鬼畜大魔神の暴走を誰か止めて下さい。
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