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第99話
「で?見事、君はまんまとアンくんに乗せられてまるっと告白しちゃった訳か。まったく、本当に君は馬鹿だな。」
時刻は午後3時50分。
きっちり宣言通り4時前に帰ってきた先生は、ダイニングテーブルの向こうの椅子に座り、腕組みをしている。
僕は、こちら側でちんまりと座り、手を膝に置き項垂れていた。
「すみません・・・。」
僕は返す言葉が無くて、顔を上げられない。
向こうのソファでは、アンが脚を伸ばしながら悠々と寛ぎテレビを観ている。
「いいじゃない、別に。その方があなた達もやり易いでしょう?私もとっても楽しいわ。」
「君は黙っててくれないか。」
先生が向こうのアンに向かって台詞を吐いた。
「嫌ねぇ。部外者扱いしないで下さらない?そもそも王子くんに今回連絡を取ったのも、太宰くんが奴隷の術式を施したからに他ならないわ?」
アンは続ける。
「でも、安心して頂戴。王子君にも言ったけど、私があの日、血液を投与した事は誰にも話してないのよ。だから誰も知らないし、気付きようが無いわ。良かったわね。」
ふふふと小鳥のようにアンは笑う。
太宰先生は、その姿をギロリと睨みつけている。
再び僕に視線を戻すと先生は続ける。
「大体君は・・・俺があいつ如きに靡くとでも思っていたのか?俺の気持ちはその程度だと。」
向こうで、失礼しちゃうわ等、アンの呟きが聞こえてきたが、あえてお互いに無視する。
「ちっ、違います。違うっ。僕は・・・僕は容姿も大して良くないし、知識も乏しいし、自信が無かったんです。・・・あんは完璧な容姿の持ち主だから、男装したら確実に美少年になる。僕には勝ち目なんてなくて・・・先生を取られちゃうかもしれないと思ったら、そんなのっ、僕、絶対、耐えられなくて。」
僕は続ける。
「だって、僕にはっ、先生が一番大切だからっ、絶対、誰にも取られたく無いって・・・。だけど、アンに取られるかもしれないと思ったら、急にっ、怖くなって。」
向こうからヒュウゥという口笛が聞こえた。
アンが野次を入れてくる。
先生が立ち上がった。
「王子、寝室で話そう。」
僕も続いて立ち上がると先生の後に従った。
「アン、覗くなよ。」
先生がアンに睨みを効かせた。
「私もそこまで野暮じゃなくってよ。聞き耳は・・・まぁ、今回は遠慮しておいてあげる。ほら、テレビの音量上げておいてあげるから。じゃ、ごゆっくりー。」
アンは、ニコニコさせながら、こちらに向かって手をヒラヒラと振った。
先生は後ろ手で寝室の扉を閉める。
先生と僕、二人だけの空間が創られる。
僕は項垂れたまま、先生に話し始めた。
「先生、迷惑ばかりかけて、ごめんなさい。でも、僕どうしても先生と・・・。」
ずっと一緒に居たかった。と言いかけて、途中で先生に抱き竦められた。
僕は先生の背中に手を回し、顔を埋めた。
「馬鹿だな。俺が王子以外の奴のところ、行くわけないだろう。よりにもよって何でアンなんだ。」
「すみません。」
僕は只管謝った。
僕は、先生が居なくなるなんて絶対嫌だった。
ずっと僕の事を好きでいて欲しい。
僕から先生を取り上げないで欲しい。
僕は先生を独り占めしたい。
「せんせい。」
僕は先生の背中に回した手に力を入れた。
誰にも渡したく無い。
「怖かった。先生が僕から居なくなるのかもしれないと思ったら、怖くて。僕から先生を取らないで欲しくて。アンに勝てる気がしなくて。ずっと先生と一緒に居たくて。お願いです。一緒に居てください。一緒に居させてください。他の人のところ、行かないで。」
僕は必死になって訴えた。
アンに取られたく無い。
先生を取られたく無い。
ぐっと硬く抱き締めていると、先生の手が僕の頬に触れた。
それから、くいっと顔を上に持ち上げられると、先生の顔が僕の上に降りてきた。
「・・・んっ、ふっ・・・ふ、・・・んっ。」
くちゅくちゅ、と先生が僕に吸い付いてくる。
僕は息苦しさと甘さに、蕩けそうになりながら、必死に先生の上顎をなぞった。
「くふっ・・・んっ、・・・はぁ、んんっ。」
先生に優しく吸われ、甘噛みされ、絡められ、甘苦しさに力が抜けていく。
「ふぅぅっ、んっ、んふぁ・・・、ぁ、ふ。」
脚に力が入らず、左右にぶれ始める。
駄目だ。
もう立っていられない。
気づくと僕の視界は歪み、世界が水没したみたいに目の前が霞んでいた。
僕からどんどん溢れて止まらなかった。
止められなかった。
止められない。
先生を好きな気持ちを止められない。
世界が歪みながら回転してゆく。
体が痺れてゆく。
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