100 / 177
第100話
苦しい。
甘くて、切なくて、苦しい。
こんなにも慕い焦がれるようになるなんて、誰が想像できただろう。
こんなにもこの人の事を好きになるなんて、いつ予想できただろう。
喉が締め付けられるように苦しく、熱く、心臓が騒ぎ、僕の全身を先生の血が駆け巡ってゆく。
右手の指先も、左足の爪先も、体の全てを痺れさせてゆく。
ドクドクと高鳴り、胸が痛み、息が思うように出来ない。
痺れる指を、懸命に先生の背中に這わせて、先生を捕まえる。
苦しい、苦しい、苦しい。
先生の気怠く熱い吐息が僕に注がれる度、僕の体は蒸気を浴びて、熱を籠めて、逃すまいと縋りつく。
喉が、きゅうきゅうと締め付けられる。
痛く、苦しく、甘く、愛しく、耳の奥の奥が先生の火傷しそうな呼吸を焼き付けてゆく。
激しく荒い渦に呑まれて、僕は僕を保っていられなくなる。
僕の痺れた指先が、懸命に先生を追いかける。
右手と左手が、交互に先生の背中を滑っては、必死に捕まり、また痺れて滑ってゆく。
息が、息が、出来ない。
耳の裏から、頭のてっぺんまで、甘く痺れて、呼吸が出来ない。
息を吸おうと熱い蒸気を吸い込めば、肺の中まで先生が入ってきて、喉を焼いてゆく。
胸が苦しくて、喉が締め付けられて、痛くて、だけど、口の中は柔らかくて甘くて、じゅるじゅると音を立てれば先生が交じり合おうと僕を食む。
僕は全てを受け入れて、先生に僕を差し出す。
溶けてゆく。
溶けてゆく。
溶けてゆく。
「ふぁ、・・んっ、ん、ふ、んふぁ、・・・ふ。」
止まらない。
止められない。
熱く痺れ薬の様に身体に染み込み、最後に残った甘さが口の中に広がる。
もっと。
「ん、っ・・・ふ、ふぅっ、ぁ、っふ。」
ちゅるちゅると先生が僕を吸い上げてゆく。
僕は口を開けて、先生を引き戻しながら、絡めとる。
僅かな隙間から少しづつ、僕なのか先生なのか解らない混じり合った蜜が、じっとりと顎を伝って漏れ出るのを感じた。
僕はそれが堪らなく口惜しくて、先生を半ば強引に啜り上げる。
「ん、ふぁ・・・ん、っんん、ふ。」
僕の気持ちに応えるように、先生が僕を熱く食む。
もっと欲しい。
もっと注がれたい。
熱い吐息を、熱い眼差しを、熱い鼓動を。
僕に、もっと。
もっと。
下さい。先生を。
僕に下さい。
僕を焼き尽くして灰になるまで、もっと。
苦しい。
愛しい。
熱い。
次から次へと溢れて止まらない想いを、先生は僕の蜜に絡めて丁寧に全て舐めとってゆく。
僕を啜ってゆく。
僕に絡ませピリピリと痺れさせてゆく。
「んんっ、んっ、うんっ、・・・くふっ、んっ。」
くらくらして、力が入らない。
僕はまだ、先生を求めている。
入り口を塞ぐ事なんて出来ない。
侵入を抗う事なんて出来ない。
だらりと力なく開いた僕の口の中を、先生が尚一層啜りあげる。
啜られる度、先生の鼓動が真っ直ぐ僕の喉を通って心臓を突き抜けてゆく。
苦しい。
もっと。
僕は涙を零しながら、先生を求める。
求め続ける。
力の入らない僕を、先生に差し出す。
裸の心を先生に差し出す。
もっと下さい。
僕に先生を、もっと下さい。
もっと、
もっと僕を苦しめて。
先生の愛で苦しめて。
心臓を、血管を、あなたの色に染め上げて。
僕をあなたのものにして。
僕に印を残して下さい。
あなたの痛みがもっと欲しい。
痺れて甘い、あなたの吐息に、僕は焦がされ溶けてゆく。
僕をもっと、あなたのものに。
誰でもない、あなたのものに。
僕にキスをもっと下さい。
忘れられないキスを下さい。
僕の喉に刻んで下さい。
あなたの愛を刻んで下さい。
「せんせい。すきだよ。」
いつか、愛してるって言って下さい。
ずっと待ってるから。
ずっと、待ってるから。
ともだちにシェアしよう!