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第100話

苦しい。 甘くて、切なくて、苦しい。 こんなにも慕い焦がれるようになるなんて、誰が想像できただろう。 こんなにもこの人の事を好きになるなんて、いつ予想できただろう。 喉が締め付けられるように苦しく、熱く、心臓が騒ぎ、僕の全身を先生の血が駆け巡ってゆく。 右手の指先も、左足の爪先も、体の全てを痺れさせてゆく。 ドクドクと高鳴り、胸が痛み、息が思うように出来ない。 痺れる指を、懸命に先生の背中に這わせて、先生を捕まえる。 苦しい、苦しい、苦しい。 先生の気怠く熱い吐息が僕に注がれる度、僕の体は蒸気を浴びて、熱を籠めて、逃すまいと縋りつく。 喉が、きゅうきゅうと締め付けられる。 痛く、苦しく、甘く、愛しく、耳の奥の奥が先生の火傷しそうな呼吸を焼き付けてゆく。 激しく荒い渦に呑まれて、僕は僕を保っていられなくなる。 僕の痺れた指先が、懸命に先生を追いかける。 右手と左手が、交互に先生の背中を滑っては、必死に捕まり、また痺れて滑ってゆく。 息が、息が、出来ない。 耳の裏から、頭のてっぺんまで、甘く痺れて、呼吸が出来ない。 息を吸おうと熱い蒸気を吸い込めば、肺の中まで先生が入ってきて、喉を焼いてゆく。 胸が苦しくて、喉が締め付けられて、痛くて、だけど、口の中は柔らかくて甘くて、じゅるじゅると音を立てれば先生が交じり合おうと僕を食む。 僕は全てを受け入れて、先生に僕を差し出す。 溶けてゆく。 溶けてゆく。 溶けてゆく。 「ふぁ、・・んっ、ん、ふ、んふぁ、・・・ふ。」 止まらない。 止められない。 熱く痺れ薬の様に身体に染み込み、最後に残った甘さが口の中に広がる。 もっと。 「ん、っ・・・ふ、ふぅっ、ぁ、っふ。」 ちゅるちゅると先生が僕を吸い上げてゆく。 僕は口を開けて、先生を引き戻しながら、絡めとる。 僅かな隙間から少しづつ、僕なのか先生なのか解らない混じり合った蜜が、じっとりと顎を伝って漏れ出るのを感じた。 僕はそれが堪らなく口惜しくて、先生を半ば強引に啜り上げる。 「ん、ふぁ・・・ん、っんん、ふ。」 僕の気持ちに応えるように、先生が僕を熱く食む。 もっと欲しい。 もっと注がれたい。 熱い吐息を、熱い眼差しを、熱い鼓動を。 僕に、もっと。 もっと。 下さい。先生を。 僕に下さい。 僕を焼き尽くして灰になるまで、もっと。 苦しい。 愛しい。 熱い。 次から次へと溢れて止まらない想いを、先生は僕の蜜に絡めて丁寧に全て舐めとってゆく。 僕を啜ってゆく。 僕に絡ませピリピリと痺れさせてゆく。 「んんっ、んっ、うんっ、・・・くふっ、んっ。」 くらくらして、力が入らない。 僕はまだ、先生を求めている。 入り口を塞ぐ事なんて出来ない。 侵入を抗う事なんて出来ない。 だらりと力なく開いた僕の口の中を、先生が尚一層啜りあげる。 啜られる度、先生の鼓動が真っ直ぐ僕の喉を通って心臓を突き抜けてゆく。 苦しい。 もっと。 僕は涙を零しながら、先生を求める。 求め続ける。 力の入らない僕を、先生に差し出す。 裸の心を先生に差し出す。 もっと下さい。 僕に先生を、もっと下さい。 もっと、 もっと僕を苦しめて。 先生の愛で苦しめて。 心臓を、血管を、あなたの色に染め上げて。 僕をあなたのものにして。 僕に印を残して下さい。 あなたの痛みがもっと欲しい。 痺れて甘い、あなたの吐息に、僕は焦がされ溶けてゆく。 僕をもっと、あなたのものに。 誰でもない、あなたのものに。 僕にキスをもっと下さい。 忘れられないキスを下さい。 僕の喉に刻んで下さい。 あなたの愛を刻んで下さい。 「せんせい。すきだよ。」 いつか、愛してるって言って下さい。 ずっと待ってるから。 ずっと、待ってるから。

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