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第102話 R18

「王子くん。喉乾いたわ。」 「はい。只今。」 翌日、金曜日。 今日も先生は学校で仕事があるので、僕はアンの面倒を見に先生のうちに来ていた。 先程からアンは、テレビを見ながら足をぶらぶらさせ、お煎餅を頬張りながらのんびりと寛いでいる。 追われている身だというのに、緊張感のかけらも見られない。 おまけに、僕は小間使いのように、アンに使役していた。 この人、本当は女王様だろう。 何処が奴隷なんだ。自称奴隷か!という心のツッコミは直接アンに投げられる事は無い。 僕はお湯を沸かして緑茶を淹れ、アンの座るソファまで運んだ。 「どうぞ。」 コトリとテーブルに置くと、僕をチラリと横目で見て、お茶を手に取った。 それから一口、口に運ぶ。 「まぁまぁね。下がってよし。」 何様か!女帝様だ!という心のツッコミが再び炸裂する。 しかし、僕は口には出さない。 何故かといえば、僕は昨日から散々アンにいたぶられ続けているからだ。 僕に勝ち目なんて無い。 今日も散々アンに、先生との事を根掘り葉掘り聞かれ、揶揄われ、弱みを握られ、反抗出来ない状態にされてしまった。 何てタチの悪い自称奴隷を匿ってしまったのか。 その上、見つかるリスクを避け、外に出られないので一日中室内で二人ぼっちなのである。 僕のメンタルは擦り切れて灰になる寸前です。 「たいくつぅー。」 アンが再び言葉を発した。 僕はその言葉にギョッとする。 今日何度もこの言葉を聞かされた。 そして、この言葉を発した後のアンは、目をキラキラさせて僕に催促してくるのだ。 そう、恋バナを・・・。 もう、何も出ないよ!勘弁してください。 それと、これ以上僕の弱みを握るのをやめて下さい。 今ですら逆らえない状態になってるのに、これ以上僕の弱みを握ってどうしようというのですか。 煮るんですか。焼くんですか。食べるんですか・・・。 「王子くん。紙と鉛筆持って来てー。」 「はい。只今。」 僕は自分の鞄から、学用品であるペンケースとレポートパッドを取り出すと、アンの座るソファへと持ち出した。 「こちらになります。」 僕は恐る恐る、アンの目の前のテーブルに並べた。 今度はなにを言われるのだろうかと、身を竦める。 「ありがとう。・・・ふーん。そうね。」 あんが意味ありげに、僕をジロジロと舐めるように見つめてくる。 そして、ふわりと微笑んだ。 嫌な予感しかしない。 僕を丁寧に観察してたかと思うと、レポート用紙に視線を落とし、何やらサラサラと書き始めた。 僕は、そんなアンの様子をじっと観察する。 そして、躊躇いを見せずに流れるシャーペンの先に視線を落として、内容をこっそり盗み見た。 何を書いているんだろう。 『朱く滴る情熱に濡れて ※この物語はフィクションです。 終業式も終わり、生徒の声もしなくなった頃、僕、森王子は保健室に呼び出されていた。 僕はベッドに座りながら、呼び出した本人を待つ。 窓の外を見れば既に日が翳り、向こうの空では夜の光が瞬き始めている。 僕は背後に人の気配を感じて振り返った。 見上げれば、保健師の太宰夏彦先生が僕を見下ろしている。 先生の朱く湿った唇が動いた。 「よく来たね。今から課外授業を始めようか。」 突然、太宰先生の右手が僕の喉を締め上げた。 それから、唇を塞がれてしまう。 くちゅくちゅと先生の舌が僕の舌に絡みつき、行き場を失った蜜がだらし無く口の端を伝いシーツに吸い込まれてゆく。 いつの間にか器用に僕は服を剥がし取られていて、裸にされてしまっていた。 僕は声が出せず助けを呼ぶこともできずに、ベッドに押し倒される。 そして、先生の太く聳り立つ熱い杭が僕の躰を一気に貫いた。 苦しくて、痛いのに、強引に上下に揺すられると僕は喘ぎ声を出してしま・・・・・』 「何するのよっ!」 アンが抗議の声を上げた。 僕は上昇する体温に身を任せて、あんの執筆していた『それ』を引ったくっていた。 手がワナワナと震えているのを感じながら、それをグシャグシャに丸める。 「何書いてるんですか!」 僕は震える手を抑えようと頑張るものの、意識すればするほど、カタカタと止まらない。 「何って、見ての通りBL小説よ。折角ノってきた所だったのに、破くなんて酷いじゃない。」 あんは、頬をぷくっと剥れて僕に抗議してくる。 「それは分かりますっ!じゃなくて、何で僕と先生の名前が書かれてたんですかっ!」 いくら事情を知ってるからって、これは流石に許容できる範囲を超えている。 アンが、あら解るの?と楽しそうに答えたかと思うと、抗議の声が降り注がれる。 「別にいいじゃない?最初の注意書きにフィクションですって、断り文を入れてあったでしょう?」 「そういう問題じゃ無いですよ!っだって、書いた後で、ネットか何かで公表するんでしょう?肖像権の侵害じゃないですか!やめて下さい!」 「ネットになんて、出さないわよ?」 アンはクスリと笑う。 その笑顔がとても怖い。 「クラスの皆で回し読みするのよ。」 「・・・・・ふぁ?!」 僕は声にならずに叫び、羞恥心はキャパオーバーを起こしていた。 「なんっ、な、な、な、・・・!」 アンは、僕の様子を見つめていたかと思うと、呆れたように、とんでも無い事を言い放った。 「ちなみにコレ、既に3作目だから。前作はすでに夏休み前にクラスの皆で読み回したわ。まあ、書いたのは私じゃないけど。」 「はっ?!」 「ほんとに何にも知らなかったのね。憐れだわ。」 アンは、深くソファに座りなおすとふぅと一息溜息をついた。 「どうしよう。教えてあげようかしら。ちなみにね。太宰くんと、数学教師の表先生、同じく数学教師の松本先生の3Pのチラ裏も回し読みされてるわね。」 「はあ?!」 僕の口が塞がらなかった。 何から突っ込んでいいのかわかりません。 とりあえず、結論として、うちのクラスの女子怖い。

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