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第107話
先生は、僕の体の上を尚も鼻先を滑らせている。
僕は諦めて、自分の羞恥心を押し殺した。
先生の鼻が僕の上を滑る度、僕の背中にぞくぞくとした刺激が走るのを感じていた。
先生が大きく息を吸い込み、吐き出すと、僕の体に先生の中に溜まった空気が直接かかり、熱くて体が火照り始める。
僕もつられて、先生の呼吸のように、息が荒くなってくる。
先生の顔が僕の耳元まで戻ってくると、僕に囁くように告げてきた。
「最初に会った時、この匂いに惹かれたんだよ。それで一か八かで君を生かす選択をしたんだ。」
衝撃の告白だった。
正直、それを素直に喜んでいいのか解らない。
とても複雑な気分だ。
それはつまり、気に入られなければ、今の僕と先生の関係は成り立っていないかもしれない、それどころか、僕は死んでいたかも・・・。
内面的な部分じゃなく、外因的な要因で惹きつけただけなのかもしれないと思うと、凄く複雑な心境だ。
そんな心情を察してか、先生が補足してきた。
「最初のきっかけは匂いに惹かれたけど、君と接しているうちに、君自身に惹かれていったのも本当だから。誤解しないで。匂いなんて関係なく、俺の大切な人であることは変わらないから。」
先生の顔が僕の体から離されて、僕の瞳を捕らえてくる。
僕は何も声にはせずに、先生の漆黒に濡れた瞳を見つめ返した。
揺れる瞳が近付いてくる。
綺麗だ。
アンが言っていた事を思い出した。
この人は眉目秀麗なのだと言う事。
言われてやっと気付いたけれど、僕は最初からこの瞳の虜になっていたように思う。
僕に牙を見せつけ覗かせてきたあの日からずっと、僕はこの瞳に囚われてしまっていたのだ。
自分も気付かないうちに。
美しく揺らめく漆黒の瞳に僕を映しながら、僕らは唇を重ね合わせる。
瞬く間に僕の胸は熱に包まれて、痛みを感じ始める。
先生が僕の中にゆっくりと入ってくる。
甘く苦しく僕の喉を焼き、僕はしっとりと絡ませられてゆく腔内で、じっくりと先生を味わう。
僕は美しく揺れる瞳を心の内で抱いた。
暫くして、僕から顔が遠のいていった。
それから、先生は恥ずかしそうに横を向きながら僕に尋ねてくる。
「何で目閉じないの。」
僕は当たり前のように答える。
「先生の瞳が美しいから。」
僕は視線を逸らさず、先生をしっかりと見つめたまま答えた。
先生は横を向いたまま、口元に左手を添える。
僕はそうなる事を見越して、先生の手を遮り顎に僕の手を添えると、再び唇を重ね合わせた。
先生の驚きに満ちた潤む瞳を間近で確認する。
矢張り綺麗だった。
美しい円を描いていた瞳が、小刻みに忙しなく揺れ、ゆっくりと歪みを見せてくる。
その瞳に僕だけが映っているのを確認すると、先生の中に舌を差し入れた。
僕の咥内にくぐもった声が押し返されてくる。
僕はそれに構う事なく、先生の奥深くまで侵入してゆく。
すると綺麗な瞳が僅かに崩れ、瞼をふるふると震わせながら歪ませられてゆく。
黒く縁取られた睫毛が揺れると光を撒き散らせて、それはそれで綺麗だと思った。
僕は吸い込まれるように、先生の中に入り込んでゆく。
ゆっくりと、中を掻き回すと、今まで自分の身体を支えていたであろう手が、僕の背中に回されてくる。
僕はその刺激を先生の口の中に押し込めてやると、更に瞳は歪められていった。
開いていたもう片方の手も先生の頬を支えるように触れ、両手で顔を包み込む。
それからゆっくりと手をずらしてゆき、先生の耳を僕の両手で塞いだ。
途端に先生は身体を震わせながら、僕の背中にしがみ付いた。
僕は慌てず、ゆっくりと、先生の腔内を味わってゆく。
先生が瞳を潤ませながら僕を見ている。
僕もまた、先生を見つめ返す。
ゆっくりと、滴るような水音をさせながら、先生の上顎を掠め取った。
くぐもった声が漏れてくるのを、僕は受け止め飲み込んでゆく。
美しい顔が僕の行為に歪ませられてゆく。
僕はその顔を舐めるように見つめ返す。
ゆっくり、しっとり、先生の口の中を掻き回しては、絡め取り、上顎を掠め、啜りあげてゆく。
先生は、僕に捕まえられたまま、逆らわず僕に従い続ける。
先生の舌が刺激を求めて蠢くのを感じると、僕はそれに応えようと、不規則にリズムを乱し、激しくしてやる。
途端に部屋中に卑猥な音が充満してゆく。
くちゅくちゅと態とらしく啜ってやれば、僕が両手で耳を塞いだ先生の顔は恍惚とした表情に歪められてゆき、漆黒の睫毛が光を散りばめながら瞬き、黒く美しい円を描いた瞳は潤みを増す。
僕は何度も先生の腔内を侵してゆく。
先生の気持ちに寄り添う事に集中しながら、僕を欲しがる先生に僕を絡め続けた。
そんなに慌てなくても、欲しければいくらでも僕をあげる。
先生が欲しがるだけ、僕を差し出そう。
だから、ゆっくり食べるといいよ。
僕も、先生を食べるから。
歪む瞳に魅入っていると、先生の隙間から蜜が漏れ出てきてしまっているのに気づいた。
僕はゆっくりと濡れそぼる上顎をなぞると、瞳を潤ませる先生からそっと唇を離し、先生の顎の裏に顔を差し入れて、滴る蜜を舌でじゅるりと舐めとった。
そのまま、舌を口角まで這わせて戻り、再び先生の唇を啜り上げる。
先生は身体を震わせると、僕の背中に回された手を緩くしきりになぞらせた。
僕は再び、先生の口の中に侵入する。
くちゅくちゅと僕と先生が混じり合う。
十二分に侵し終わると、僕は唇を離し、先生の濡れそぼる瞼にそっと唇を落とした。
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