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第109話
僕は先生に尋ねる。
「先生、やっぱり僕とはしたくないの?」
僕は自分が不安になっている事を悟られぬよう押し殺しながら、先生に優しく言葉をかけた。
先生は再び首をふるふると横に振りながら、僕の質問に答える。
「したい。」
前回聞いた答えと全く同じ答えが返ってきた。
けれど、では何故ゴムなんて用意してあったのだろう。
何に使うか目的が定かでは無い為に、僕の不安は膨らむ。
しかし、それを抑え込む。
僕はそっと、先生の頭を引き寄せて、再び頭をゆるゆると撫でた。
先生が僕の胸でふるふると顔を揺らし、すんすんと鼻を擦り寄せてくる。
またこの人、僕の匂いを嗅いでいる。
僕は仕方なく、先生の気が済むまで、好きなようにさせてあげることにした。
本心は、隠しておく。
暫くして、先生が僕に白状し始めた。
「あれね・・・。君と繋がることが出来たらいいなと思って購入したんだ。」
「えっ、じゃぁ、・・・。」
僕が口を開きかけると、再び先生が緩く首を横に振った。
僕は黙って先生の言葉を待つ。
「しようと思って買った訳じゃない。願掛けみたいなものだったんだよ。もうだいぶ前に購入したものさ。」
先生は続ける。
「君の夢が俺に侵入してきて、夢を共有してることに気づいてから、こっそりコンビニで購入したよ。」
僕は先生の髪を梳く。
「この想いと共に、奥深くに閉まってしまうつもりでね。あれを使う時は、俺の想いが通じた時だからと、願いながらね。奥にしまった。」
「えっ、じゃあ尚更、僕として下さい。そうでしょう?」
僕は慌てて言葉を遮った。
そういう理由で仕舞われていたのなら、尚更僕は先生としたい。
だって、その願いを現実にするべき時は、今でしょう?
しかし先生は再び首を横に振った。
「俺はその他に条件も入れていた。『君が大人になったら』っていうね。だからまだ、あれを使う時じゃない。なのに、俺ときたら怒りに任せてアンに使おうとしたなんて。大切に仕舞い込んだ筈のものだったのに、有り得ないな・・・。こんな俺ですまない。」
先生は項垂れたまま僕に謝った。
僕の腰に抱きつきながら、僅かに肩を震わせている。
「先生、大丈夫だよ。あれは僕が止めたでしょ?だから大丈夫。」
先生を抱き締める。
この人の不安の原因はきっと自分の心にあるのだろうと悟った。
なら、僕が丸ごと包んでしまえばいい。
先生の心ごと、丸ごと全部。
それだけの包容力を大人になるまでに、絶対に身に付けてやる。
「先生、その願い、今日から僕も仲間に加えて。僕も一緒にその日が来るのを願わせて。それまで僕は、きっと先生の側を離れないから。それからもきっと先生の側を離れないから。だから、安心して僕を好きになるといいよ。僕も先生を今よりもっと好きになると誓うから。そしたら、2人であのコンドームを使おう。その日が来たら、2人で開けよう。」
先生が顔を上げて苦笑した。
「守れるか解らない不確かな約束はするものじゃないよ。でも、嬉しい。ありがとう。」
「守ってみせるよ。必ずね。そしたら僕が先生を抱いて凄く気持ちよくしてみせるから。その代わり、逃げたら許さないからね。」
僕はきっぱりと言い切った。
今、先生が僕を抱けないのなら、大人になったら必ず先生を抱いてやる。
必ず。
そんな僕を、先生は一瞬目を丸くして見たかと思うと、顔を崩して笑っていた。
僕の本気は、まだまだ先生には伝わらない。
「楽しみにしてる。ありがとう。」
笑いながら、先生は再び僕に顔を擦り寄せる。
僕はその頭を出来るだけ丁寧に優しく撫でた。
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