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第113話

結局、何の進展もないまま一週間が過ぎてしまった。 つまり一週間、先生と会っていない。 いい加減、そろそろ僕は我慢出来そうに無かった。 毎日、毎日、先生の事しか考えてない。 ノイローゼになりそう。 多分これは、先生病。 そろそろ、きっと第二形態に入ってしまう。 なのに! 相変わらず僕の人差し指は、頑固で、全く動いてくれなくて、先生の名前をタップしようとしてくれない。 今、そう。 今、正に、携帯を前にして人差し指をプルプルさせながらのたうち回っているのが、この僕! ベッドの上でのたうち回り、机に向かって眉間に皺を寄せ、御飯を食べながらしきりにケータイを確認する。 病気! もう、これ病気! 先生から着信あったら、折り返そう。 そう思って待ってるのに、全然来ない! そして、僕は勇気が無くて自分から掛けられないチキン野郎! 全く何を話していいのか分からないでいた。 分からないから掛けられない。 会いたいよって言えばいいの? それで解決する? しちゃう? どうなの? 教えてエロい人。 この間、部活のカラオケで皆に会った時に、色々聞いておけばよかったかな。 けど、僕、女の子じゃないんだよなぁ。 『彼氏と連絡取りにくいんだけど、どうしたらいい?』 なんて、聞けるか! そもそも、みゆきには、まだアンと付き合っていると思われている。 『彼女と連絡取りにくいんだけど、どうしたらいい?』 とか、聞ける訳ない。 だって、皆にアンが来れない事、伝えたのは僕だし! 何言ってんの?連絡出来てるじゃん、って言われるのがオチ。 僕と一般高校生カップルとの決定的な違い。 それは。 相談できる相手が一人もいない!! ネットで相談? 怖くて出来るか! そんな訳で、悶々としている間に、簡単に一週間が過ぎてしまった。 何か良い言い訳。 何か良い口実。 何か良い・・・。 僕は禁じ手を使う事を決意した。 そうです。 アンをダシに使うしかない。 アンとの生活はどうですか?とか、アンは元気にしてますか?とか、この間聖歌隊の皆でカラオケ行ってきたのでアンに報告です。とか。 しこりは残ったままだけど、会いたいし、やっぱり好きだし、会いたいし、喧嘩したくないし、会いたいし。 こうして思うと、遠距離恋愛している人って凄いなと思う。 会えない時間が愛を育てるとか、よく聞くでしょ? それほんとなの? 辛くないの? 僕にはまだ理解出来そうにない。 だって僕は、一週間で限界値を超えそうだからね。 僕は画面を睨みつけた。 押すんだ。 押して仕舞えば良い。 押すんだ。 お・・・・・。 僕は深く息を吐いた。 僕はこんなにも臆病な人間だった。 ウジウジしていてみっともない、そう形容されるのだろう。 再び僕は大きくゆっくりと息を吐き出した。 心を落ち着けるよう努める。 そして目を瞑る。 瞑想して無心になろう。 考える事を辞めてしまおう。 それで押せるなら、そうすべきだ。 僕はやっとの思いで、悟りを開き画面をタップする。 耳に当てると、呼び出し音が鳴っている。 呼吸を整える事を意識しながら、じっくりと待つ。 だけど、徐々に心臓がバクバク言っているのに気付き始めた。 身体中の血管が騒いでいるのを感じる。 ゆっくり、ゆっくりと呼吸をする。 ゆっくり、吸って、 ゆっくり、吸って、 ゆっくり、すっ。 「はい、太宰です。王子?どうした?」 「ファっっ、あ、あ、えと、あの。」 頭の中は真っ白になった。 先生の声が聞こえるって事以外、何ももう解らない。 一週間ぶりの先生の声だ。 その事を認識するだけで精一杯で、頭がぼうっとして働かない。 何だっけ、何話すつもりで電話したんだっけ? なんだっけ・・・! 瞑想なんかするんじゃなかった! 「うん?なに、どうした?」 先生が僕に尋ねている。 どうしたんだっけ、僕。 もう、自分で自分を問い質したい。 何も思い出せない。 「えあっ、あ、あ、あ、・・・の。」 「うん?なに?アンなら元気だから心配いらないよ。大丈夫、気を遣わせてすまないね。それなりに何とかやれてるよ。・・・アンが代われって言うんだけど、一旦代わるよ?」 「ひ、はい。」 僕のヘタレっぷりにも、程があると思う。 これは、ヒドい。 こんなに上がり症だったかというと、それも身に覚えが無い。 間も無くして、アンが電話に出る。 「王子ね?どうして来ないのよ。私は退屈で仕方ないわ。何で来ないの?来なさい。解った?」 「へっ、あ、はい。」 「決まりね。じゃ明日、太宰くんを迎えに向かわせるから、しゃんとしなさいよ?じゃ、代わるわね。」 「あ、はい。」 「・・・、そういう事だから明日迎えに行くよ。また君に迷惑かけてすまないね。・・・えっ?あぁ、朝からで頼むよ。いつもの7時・・・じゃ遅いな、6時半でお願い出来るかな?」 「は、はい。分りました。」 「ありがとう。助かるよ。ところで、俺に何か用があったんじゃない?どうした?」 「あ、いえ、大丈夫です。明日も宜しくお願いします。」 「そう?じゃ、申し訳ないが、明日迎えに行くから頼むよ。御飯は食べた?しっかり寝なさいね。おやすみ。」 「はい、おやすみなさい。」 僕はスマホから耳を離した。 それから、大きく息を吐き出した。 えっと。 怒涛の会話が流れ過ぎたけど、良しとしていいよね。 アンに救われた気がする。 僕の不甲斐なさには、ほんとに呆れる。 ありがとう、アン。 今回ばかりは君に感謝します。 それにしても、いつもの先生で良かった。 やっぱ、先生の声好き・・・だなぁ。 思い返す度、心臓がきゅんとなる。 いい声だと思う。 今まで意識した事なんてなかったけれど、顔が見えないぶん、電話越しで余計、声が刺激的に感じられた。 アンに教えられて以来、知れば知る程、気付けば気付く程、先生って、いい男・・・らしい事が解って来た。 好きな部分がどんどん増えて来て、嬉しいような気恥ずかしいような。 だけど、これ以上先生の事好きになって自分が持つだろうか。 今ですら既に病気・・・。 いや、考えないようにしよう。 この気持ち、止められないのはもう解っているから。

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