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第118話
僕は先生に腕枕された状態で、先生の隣に寄り添っていた。
口の中では、血の味が漂っている。
結構派手にやったんだと思う。
先生は時折僕の口元を気にして、ぺろ、ぺろと僕を舐めていた。
これがまた、あまりに優しくしてくれるものだから、その度に僕はフワフワと溶けてしまい、余計、動けない状況を作っていた。
「んっ。そんな、舐めちゃ、だめっ。」
僕は堪らず声をかけると、先生が蕩けた目で僕に聞いてくる。
「舐められるの、嫌い?」
「・・・好き。・・・んっ。」
再び僕は先生の熱い舌で舐め取られた。
僕はまた、溶ける。
いつまでも血が滲むのは、歯による傷だったからに違いなかった。
吸血鬼の咬み傷はなかなか治らない。
けれど、何時迄も続くその味に、僕は間違いなく幸福感に満たされていくのだった。
僕は先生が好きで、先生の血も好きだった。
とても美味しい。
「・・・先生、血、もっと飲みたい。」
気づいたら僕は口に出していた。
先生は少し驚いた様子でこちらを見ている。
「人間の?」
何故か緊張して問い掛けてくる先生に対して、僕はふるふると顔を振った。
「先生の血。」
すると、先生は安堵の表情を見せる。
僕にとって、血といえば先生の血しかない。
人間の血なんて、どうでも良かった。
「噛んで良い?」
僕は自分の腕を噛むつもりで聞いた。
けれど、僕の目の前に先生の腕が差し出される。
「いいよ。」
先生はそう言うと、自分の手首を僕の口の中に押し込めようとした。
僕は慌ててそれを止める。
「違うよ先生。僕は先生を傷付けたくない。僕は自分を噛んでもいいかと聞くつもりで、質問したの。」
「それは駄目。」
「何故です?」
「俺は君に傷ついて欲しくない。当たり前だろう。」
両者とも相手を考えての事なので、困ったことになった。
先生が思案顔で僕の頭を撫でている。
「輸血しようか。」
けれど、僕は先生の提案に首を横に振った。
「違う。あくまで飲みたいの。先生の血の味が好き。凄く美味しいから。・・・我儘でしょうか。」
先生を困らせそうで、結局ゴリ押し出来ない自分がいた。
やっぱりアンが羨ましいなと思った。
僕には先生を困らせると分かっていながら、我儘を押し通す勇気が無い。
先生が朗らかに笑ってくれるのが救いだった。
「いいよ。この間みたいに、君の血を抜いて飲んでしまえばいいよ。それから、君に足りなくなった分の血は俺のを輸血しよう。」
「そっか。」
前回の輸血の答えは、捨てるでもなく、先生に輸血し直すでもなく、僕が全て飲み干してしまうという第三の選択肢を選んだのだった。
全てのアンの血がなくなるわけでは無いけれど、こうする事で少しでも濃度を薄めることが出来る。
また、僕も先生の血が飲めるし一石二鳥の方法だった。
早速先生は、クローゼットの奥から輸血の道具を取り出して、セットし始めた。
僕と先生の両者とも針が通され、少しずつ血が抜かれてゆく。
今日の先生の血も、真っ赤で綺麗だ。
虚ろな思考で眺め続けた。
最近僕は、先生の血を見たり味わったりすると、体が反応してくるようになっていた。
だから、今も体が熱く火照ってきてしまっている。
そしてそれは、先生にもバレているようで、それ用に、こっそりと僕の身の回りの準備までしてくれていた。
恥ずかしいけれど、血を見てしまった為に酔う気持ちの方が強くて、言われるままに服を脱ぎ、下着姿のまま厚手のバスタオルが敷かれたベッドの上に横になった。
先生は手際よく、先生から抜いた血液を僕に輸血することを開始し、僕の口には、さっきまで自分の体を巡っていた血が流れてくるチューブを咥えさせられた。
側から見たら異様な光景に映るだろうなと思う。
先生はそれが終わると、僕がいる場所と反対側のベッドの奥に横になり、再び僕を抱き締めた。
無機質なチューブの食感が味気ないとは思いつつ、そこまでの我儘なんて言えるはずも無い。
次第に、意識が朦朧としてくる。
美味しい。
さっきまで僕の体を流れていた先生の血が、ゆっくりと点滴と同じ速度で口の中に注がれてくる。
先生の血は、いつの間にか僕にとって大好きなものになっていた。
それは、食品であり、性的嗜好品でもあった。
口の中が蕩け、また、体も心も蕩け出す。
突然僕の体に先生の指が這わされ、体に痺れが走った。
僕が体を跳ね上がらせると、先生は楽しそうに緩く笑い、僕の体を更に撫でてゆく。
先生の手が僕の体の上を流れるたびに、体が痺れる。
気持ちいいのに、口を開けることが出来ず、僕は全身を震わせる。
口を開けると先生を零してしまうので、開けることが適わないのだ。
零さず飲む事に必死で、上手く息をする事が出来ず苦しい。
なのに、先生には僕に触らないように伝える事も出来ず、体は気持ち良くなりすぎて、口の中は先生の味で満たされて、僕は今まで以上に、感じたことの無い快楽に、文字通り息も出来ずに溺れた。
今までも相当快楽に翻弄された筈なのに、口を塞がれて、零さないように舐めとるという条件が追加されただけで、こんなに鮮明に快楽を感じる事になるとは思っていなかった。
先生の血を味わおうと、零さないように苦しくもがきながら、意識を味覚に集中させようとすると、先生の手が、僕の腰や背中を流れては煽り、手を握られ指は捕らわれ、額や瞼に先生の熱い唇が降り注がれてくる。
だから、体で快感を貪りながら、味覚で先生を味わおうとすると、一度に全てを感じ取ってしまうのだった。
僕はそこから逃げる事も出来ず、口元を油断する事も出来ず、意識を手放す事も許されず、先生に翻弄される事になった。
僕はビクビクと体を震わせながら、なんとか口に収めてゆく。
僕の視界が悪くなる度に、先生の唇が僕を舐めとるので、僕は先生を見つめ続けながら、溺れていった。
そんな僕を先生もまた見つめて来るので、羞恥に悶える事になる。
それがまた、僕を快楽に引き摺り込んでゆく。
全身を震わせて、輸血が終わった頃には、僕は疲れ果てて動けなくなっていた。
僕は意識があるにも関わらず、先生に着替えを手伝って貰う羽目になった。
快楽に溺れている時には周囲の状況を把握する余裕なんてないから、溺れてしまえばいいだけなのに、我に返ってから、目の前で丁寧に僕の体を拭われるのは、恥辱に塗れて顔を上げられなかった。
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