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第120話

ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ ピ 「・・・んん。」 携帯のアラームを止めると、僕は再び枕の上に頭を沈めた。 まだウトウトして覚醒しない身体を、左にごろんと寝返りを打つ。 それから、大きく息を吐いた。 また、今日も夢を見られなかった。 いや、実際は見ていた可能性も捨てきれないが、夢の記憶は一切残ってはいなかった。 残ってなければ、見ていないのと同じ事なのでがっかりする。 先生と夢を共有出来ると分かって以来、なんとか夢を操ろうと毎晩眠りに付くようになってから、一体何日過ぎてしまっただろう。 一向に成果は現れない。 夢に毎日毎日悩まされていた事があったなんて、嘘みたいだ。 どうしたら、夢で先生に会えるのだろう? 先生の夢が侵入した時も、僕の夢が先生の夢に入り込んだ時も、お互いに同意などしていない。 つまり、多分一方通行で良い筈だ。 なのに、強く願って眠りについても、全く夢に先生が現れない。 それでも、どうしても、夢で先生に会いたい。 なのに一向にその夢が叶いそうもなかった。夢だけに。失敬。 僕は再び身体を捻って寝返りを打つ。 まだ、頭がぼんやりとしていて、上手く働かない。 夢で会えたら、絶対してみたい事があるのだ。 恋人だったら、誰もが当たり前にしてみたいと願う事。 僕の中には、先生を僕のものにしてしまいたいと願う欲望がもうずっと燻っている。 もっと先生を感じたい。 僕で先生を満たしたい。 繋がりたい。 二人で海に揺蕩いたい。 先生を僕のものにしたい。 先生のものになりたい。 心も体も、繋がりたい。 愛しあいたい。 けれど僕の場合は、現実では先生に止められてしまって出来ないでいる。 僕が無理矢理に先生を襲う、という選択肢が浮かばない事も無かったけれど、まだ、実行には至っていない。 したとしても、先生に許される自信ならある。 けれどその後、関係を良好に保ち続ける自信のほうは無かった。 あの人は変なところで真面目だから、僕を許しても自分自身を責める事をしそうで怖い。 それと何よりきっと、あの人を泣かせる事になる。 僕は僕のせいで涙を見せる先生は見たく無い。 だから、襲うに襲えなかった。 じゃぁ、せめて夢だけでも、と有言実行するべく毎日毎日強く願うのに、一向にその日が訪れることは無い。 一体どうなっているのだろう。 夏休み前、あんなに毎日毎日夢で先生に会えていたのがまるで嘘のように思える。 条件を調べようにも、先生ですら夢の共有については知らなかったのに、どうやって調べればいいのだろうか。 僕の吸血鬼の知識は、相変わらず先生には堰きとめられたままだし、唯一の頼みの綱のアンについても、先生が僕に教えないからという理由で教えてくれそうにない。 それにアンには夢のことは話せない。 他に接点のある吸血鬼といえば、僕にとっては、あと老中くらいしか居ない。 老中ってどうやって会うんだ。っていうか、偉い人が初対面とほぼ変わらない僕に、僕の都合で会ってくれる訳ない。 そもそも、連絡先も知らないんですけれど。 「あ、カラス。」 カラスだったら、吸血鬼の知識とまではいかずとも、そこに繋がる人脈を持ってそうだ。 アンを匿っているこの状況下で下手に動く事は得策でない事は分かるけれど、僕の好奇心を抑制出来る程の理由にはならなかった。 それにカラスなら、先生の信頼も厚い上に、口も固い。 そうと決まれば、まずは接触しなければ。 学校に行こう。 もしかしたら、たまたまカラスが来る事もあるかもしれない。

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