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第123話

僕は、先生の部屋で先生と一緒に何時ものようにベッドに横になって微睡んでいた。 時刻は4時を過ぎたところ。 今日も朝から先生の家に来ていて、午前中はアンと二人で時間を潰して過ごしていた。 このところアンは日に日に覇気が薄れてきたのか、徐々に丸みを帯びて来て、何かをぼんやりと考えている姿をよく見かけるようになった。 家から一歩も外へ出ず缶詰生活を送っているので、なるべくしてこの状況を生んでいるも同然だった。 僕は鬱にならなければいいなと、アンを案じている。 先生も多少それに気付いているようで心配していた。 出来るだけ早期解決が望ましいのだが、一向に秘策や良策といったものが見つからず、また、元老院の動きも中原老中を捕縛出来ずに鳴りを潜めてしまっているため、今の状態で安易に動く事も出来ないままになっている。 僕は取り敢えず、昨日あった事を僕の隣で一緒にゴロゴロしている先生に逐一報告する事にした。 アンに聞かせてもいいのか迷った為、まずは先生に話して判断を仰いで貰おうと思ったのだ。 「という訳で、昨日偶然にもネコと会う事が出来ました。それがさっき話した会話の全貌になります。」 僕は先生の手を握りながら一部始終を話し終えた。 先生は、僕の話を聞きながら、所々で何かを考え込むように沈黙しながら、うんうんと話を聞いていた。 「おかしいですよね。保守派に斡旋してこようとするなんて。アンに僕を殺すようけしかけたのは保守派なのに。」 僕はブツブツと文句を言うように、主観を述べた。 先生は考え込んでいる。 「そもそも、保守派って純血組織じゃ無いんですか?先生は混血でしたよね?」 僕が訝しんでいると、先生が口を開いた。 「俺は混血だよ。保守派代表の中原が居なくなってしまったので、極少数派閥の保守派そのものの地位が危うくなったんだろうね。だから、純血混血などと言ってられなくなってしまったって所だろう。」 「地位が危うい??」 保守派の地位が危ういってどういう事だろう? 元老院って、保守派と革新派の二大勢力で争ってるんじゃ無いの? 国会で言えば、野党と与党みたいなイメージだと思ってたんだけど。 「つまり、派閥なんてどうでも良くて、権力さえ手に入れば何でもいい奴なんてごまんと居るんだよ。元老院での最高権力は老中の3席しか無いのに、そのうち1席が極少数派代表の中原の席で埋まってたんだ。何世紀に何回入れ替えがあるかも解らない席だ。それが今や空席になってしまった。昔は保守派のほうが数が多かったが、時代と共に保守派は衰退の一途を辿り、昔は少数だった革新派と現在では形勢逆転してしまっている。その為、革新派の老中の1席を巡って相当な内部紛争を繰り返し続けてきた。勿論、流血沙汰も含めてね。それが、保守派に鞍替えさえすれば、1席が手に入るかも知れない状況になったんだ。今や誰もが目の色を変えてその席を狙ってるという訳さ。」 えーと、うーんと?ちょっとよく解らない。 「えーと、今は派閥を超えて、老中の1席を巡って争いが起きているって事でいいですか?」 「そういう事だね。もはや、保守派の旧体制時代は終わりを告げたのさ。」 「うーん。先生、よく解らないんですけれど、何で保守派と革新派の2席だけで争いが起きてるんです?合計3席だったと思うんですけれど。」 「萩原老中は特別なんだよ。例えるならアメリカの大統領みたいな権限を持っている。席が空いた時の選出方法は保守派と革新派の2席から選ばれるんだ。だからね、萩原老中の席に座りたいなら、先ずは保守派か革新派の何方かの老中の席に座る必要がある。そういう理由もあって態々争いの激しい革新派の席が空くのを待つより、今、空きのある保守派の席を奪う方が遥かに容易で断然利口なやり口になったって事だよ。」 「へ、へぇ・・・。」 僕は話を聞きながら、頭をこんがらがらせて、何て面倒臭い事になってるんだろうと、他人事のように聞いていた。 それから、ネコは本当に忙しかったんだなぁと思い返した。 内部事情なんて知らないから、忙しそうなふりをして話を撒く常套手段程度にしか思ってなかった。 ごめんよ、ネコ。 そりゃ、猫の手も借りたいですよね。ネコだけに。失敬。 「今回の件で、一番不憫なのはネコだよ。誰の遣いか解らないけれど、本来の保守派の思想体制を揺るがされる事態に発展してしまった為に、純血混血問わず、思想を共にする同志の斡旋、選出を任されたんだろう。俺は混血とはいえ、力も強く、保守派の研究に協力している事も踏まえて、ネコが遣わされたって所だろうね。」 ん? 先生は保守派の研究に協力してたの? 革新派じゃなくて? 「えっ、研究って保守派が進めてたものなんですか?」 すると先生は、何処か冷めたように卑屈に笑った。 「そうだよ。全く、保守派は散々混血だからと俺を虐げておいて、吸血鬼の力の繁栄の為に俺に協力を仰がざるを得なくなるなんて、皮肉なもんさ。ま、研究機関は血の薄い革新派が主体ではあるけどね。この問題は双方どちらかがどうのでは無く共通の課題だから、どちらも熱心に力を注いでいるよ。とはいえ、研究所内部でも保守派と革新派のいざこざは絶えないようだけど。」 「へぇ。」 大人の考える事、やる事って、すっごい面倒臭いなぁ。 っていうか、虐げるって何? ちょっと聞きづてならない単語が引っ掛かる。 過去に先生と保守派の間でトラブルでもあったのだろうか。 気になりはしたけれど、楽しい話題では無い事だけは解り、突っ込んで聞くことはしなかった。

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