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第132話

「わ、かりました。でも、僕からも一ついいですか。」 僕は意を決して尋ねてみた。 僕には断れる理由が無いので仕方がないとはいえ、全て先生の思惑通りに事が運ばれてゆくのが癪なのだ。 それなら、僕だって何か一つくらい要求しても許されると思うんだ。 「うん。言ってごらん。」 「あの、夢で会いたいんです。その方法を調べたいんです。代表代理補佐の役職の権限を使って、その辺を調べる事は可能ですか?」 「成る程ね。」 先生は頷くと、また、僕の頭を撫でた。 「前にも言ったように、俺も個人の出来る範囲で調べる事は調べたんだが、何も見つける事が出来なかった。権限を行使した所で、必ず見つかるとも限らない訳だが、それを分かった上なら好きにしなさい。」 「はい。」 「ただ、これは俺からのお願いなんだが・・・。」 先生は一旦口を噤んだ。 僕は何を言いたいのだろうと思い、先生の顔をまじまじと見つめると、眉を八の字に垂らし重苦しい表情の先生がそこに居た。 「あくまでお願いで、君の行動を抑止する事は出来ないんだが、あまり、吸血鬼の事については俺以外の情報筋から情報を集める事はしないで貰えないか。」 僕は先生をじっと見つめ続けた。 前々から思って居たけれど、何でそんなに頑なに教えたがらないんだろう。 まさか、こんな風に面と向かってお願いされてしまう程、吸血鬼の情報を開示する事を拒まれるとは思ってもみなかった。 「あの、それは・・・。」 僕が言いかけると、先生は目を伏した後、体を強張らせたような気がした。 そう思ったのは、先生の指が、僕の髪で遊んで居たのが、一瞬びくんと跳ね上がったからだ。 どうして、知られる事をそんなに怯えているのだろう。 「あの・・・。」 僕は再び声を掛けたけれど、でも次の言葉を口にするのを躊躇った。 僕には不可解で仕方なくても、この人にとっては怯える対象なのだ。 別に僕は、今の生活に不自由を感じている訳じゃ無い。 なら、無理に聞き出す必要も無いのではないだろうか? 僕はゆっくりと息を吐き切ると、先生に伝える。 「解りました。夢の事を調べる以外に、無理に他の事を調べようとはしません。」 僕が伝えると、先生は忽ちに安堵の表情を取り戻した。 この人が、僕に吸血鬼のあれこれを隠したがる理由がいまいち、よく分からない。 分からないけれど、それで先生が安心するなら、それも仕方ないと自身に言い聞かせる以外なかった。 けれど、自分の思っている事は、思っている以上に相手に伝染してしまうものだったりする。 先生が苦々しく笑っている。 「まだ、君を独占していたいんだ。大人になったら知りたい事は全部教えると約束するから、それまで、もう少し俺だけの君で居てくれないか。」 「はい。」 再び、先生の指が、僕の髪を掬った。 それから緩やかに後ろに流されると、首に回り、背中に移動し、やんわりと抱き竦められる。 僕の中にまた、忘れかけていた疑問が浮かび上がってきた。 僕が大人になったら、先生の僕じゃ無くなるのだろうか? 今の僕に、僅かな不安が芽生える。 大人になるって、今とそんなに何かが変わってしまうのだろうか。 何故そこまで僕が大人になることに拘るのか、僕には分からなかった。 高校生じゃなくなった僕は、大人になっているのだろうか?その大人の僕は先生のものじゃ無くなるのだろうか? 大人になるって、先生のものじゃ無くなることなのだろうか? いつ大人になるんだろう? 考えてみても、何も分からなかった。 早く大人になりたいという気持ちと、大人になりたくないという気持ちが矛盾して混ざり合った。 だから余計、本当の僕はどうありたいのか、分からなくなりかけた。 少なくとも、今の僕は先生と一緒に居たい。 先生と一緒にいる明日を作るために、今の自分を考えて、目の前にいる先生を大切にしよう、と思った。 きっと、それしか出来ないし、それでいい。 それでいいのだ。 って、誰かに背中を押してもらいたい、なんて半分本気で、半分冗談のように考えた。 大丈夫。 まだ、冗談を考えつける程度には、思い詰めていない。 大丈夫。 僕は、不安を殺して先生に擦り寄った。 先生の鼓動が、僕の頬に伝わる。僕は目を閉じでそれを感じる。 暖かくて、心地よくて、安心した。 やはり僕はこの人から離れられない。 「あの、具体的に補佐って何するんですか?」 僕が尋ねると先生は笑った。 「別に何も。強いて言えば、俺の側にいること、かな。」 いや、そんな訳ないだろ。 補佐が必要なくらいなのだから、山程やらなければいけない事があるはずだ。 あえて何も言わない事で、僕を試そうとしているなと悟った。 「わかりました。では、片時も離れず側にいます。」 あえて突っ込む事をせず、僕は従順に返事をした。 先生は満足そうに微笑むと、僕を抱き締め直した。

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