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第136話

先生は朗らかに笑ったまま話を続けた。 「彼らはね、俺が混血である事を理由に後で俺を弾圧するつもりだったのは間違いないよ。けれど今日のネコとの交渉により、彼らの予想していなかった事態に陥ることになるんだ。それは何だと思う?」 「え、もしかして僕ですか?」 ネコの話だと、元々僕が補佐になる話などなかった筈だ。けれど今日のネコとの交渉で、補佐になる事は確約されたものになった。 「そう。君が鍵になるんだ。」 ん?僕が補佐になる事はそんなに重要な話だったの?鍵? 僕があちこちに思考を巡らせていると、再び先生が笑いながら頭を撫でた。 「君の存在は、元老会議にかけられる程に特殊である事は、もう解っているね?君という存在は禁忌を犯して成り立つ上に、俺と全く同じ混血なんだよ。その君を、あのネコがネコの独断で保守派全員に代表代理補佐に推薦すると、触れ回るんだ。実に面白い展開じゃないか。」 朗らかに笑っていた先生の口元が、その瞬間キュッと吊り上がった。 「えっ、えっと・・・?」 僕はよく解らずに首を捻った。 「ネコ崇拝者である保守派に対して、ネコがネコの推薦で禁忌の上に成り立つ混血の君を、突然補佐に任命するという宣言を下すんだよ。保守派はネコの宣言に逆らえない。混血を認めざるを得ない状況を作った事になる。認められたのは君だけれど、中身は俺の血だ。つまり、俺を認めざるを得なくなってしまった訳だ。」 「あぁっ!って・・・、えええっ。」 「補佐として何をすればいいのか君に聞かれた時、ちゃんと答えたろう?君は俺の側に居てくれるだけでいいって。」 「ええー・・・。」 この人、最初からそこまで考えてそのつもりで代表代理を務めるつもりでいたのか。 抜け目なさ過ぎて鳥肌が立った。 先生が口の端を吊り上げたままで、くつくつと声が漏れ聞こえてくる。 ・・・とっても楽しそう。 最初からそういう事、何で教えてくれなかったの! 僕がじっと先生を見つめていると、わしょわしょと髪を掻き回された。 「全く可愛いな君は!君の俺に対する熱意が無ければ、こう上手くはいかなかった筈だ。ネコを騙すなんて無理だから、生半可な事を言ってれば却下されただろうね。ありがとう。」 「なんですかそれ。褒めてるんですか。貶してるんですか。」 「俺が君を貶す訳ないだろう。君の気持ちが嬉しいんだよ。俺の事考えてくれたんだろう?嬉しいよ、凄く。」 そう言うと、先生はぎゅっと僕の事を抱き締めてきた。 僕って、そんなに、そんな恥ずかしい事言ってたのか。 必死だったから、どれだけ恥ずかしい事を言っているのかなんて、まるで考えてなかったよ。 今更羞恥心が込み上げてくる。 ネコが僕の事を気持ち悪いと言ったのも、理由がなんとなく解ってしまった。 多分だけれど、きっとあの時の僕は先生大好きオーラを放っていたに違いなかった。 うわぁぁ、しかもネコ相手に。 わぁぁああ。 つまり、それって同性愛って事、バレてないよね。 大丈夫だよね。 そっちが凄く心配になってきた。 「先生、まずくないですか。僕、先生の事大好きです、ってネコに向かって宣言したのと同じですよね。急に不安になってきました。」 「大丈夫だよ。そんなの、証拠が無いからね。それにネコだって馬鹿じゃないから、今、こんな大変な時期に騒いだりしないだろう。」 「それも、そうですね。はい。」 僕は抱き締められたまま頷いた。 先生の腕は未だに僕に絡められたままだ。 学校だから、どうにも落ち着かなくて、恥ずかしい。 「ただ、やはりアンには外での動きは内密にするのが良いだろう。信頼していないって事じゃなくてね。万が一彼女が捕まりでもした時に、彼女自身が話したくない事を漏らしてしまう可能性がある。そうなった時は彼女の為にもならないからね。そう言うことは、出来るだけお互いに知らせるべきじゃ無いと思っている。」 「アンの為にもなるんですね。解りました。気をつけます。」 「そうだね。」 先生がひとつ頷くと、やっと僕の体から先生が剥がされた。 抱き締められるのは嬉しいけれど、やっぱり学校だと誰に見られるか解らなくて落ち着かないから、離されるとホッとした。 僕はネコの会話を思い返す。 明日、元老院で元老会議をやると言っていた。 っていうことは、僕も当然出掛けるんだよね。 予定は空いているけれど、困ったことになった。 そう、服が無いんだ。 この間はTシャツと、あと確かジーンズだったと思うんだけど、あまりに僕の格好はあの場所に不釣り合いで、肩身の狭い思いをしたのを思い出していた。 流石に、それを知っていて今回もその格好で、という訳にはいかない。 「先生、明日の元老院ですが、どうしましょう。僕、服がありません。制服くらいしか無いです。」 「あぁ、それなら、どうしても気になるなら、制服を元老院まで持ってきて、現地で着替えれば良いだろう。はい、解決。まぁ俺はTシャツでいいと思うんだけれどね。前回、その格好で誰かに咎められたりした訳でも無いだろう?」 確かに咎められた事がある訳じゃ無いけれど、あの先生のカッチリした格好の隣にTシャツで並ぶのは、かなりのプレッシャーだよ! 「いえ!是非そのアイデア採用させて下さい。現地で着替えます。」 先生のアイデアを即採用し安堵する。 現地で着替えると言う発想は全く無かった。 制服しか無いけれど、Tシャツよりは断然マシだ。 また、あの恥ずかしい思いをしないで済むかと思うと、気持ちが少しだけ軽くなった。

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