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第140話

140.  僕は先生のベットの上にいて、先生にのしかかられていた。  さっきの事で、余程のストレスを与えてしまったからだと思う。  僕は先生と何度も触れる度、気づけば先生の僕に対する独占欲が強い事を学んでいた。  それは僕も同じようなものだから、こうして求められる事は、僕にとって嬉しい事だった。  けれど、これは恋人としては最低だと思う。  相手の心を不安にさせて、自分を求めるよう仕向けるようなことをしたのだから。  そして先生は、僕に対して一度だって僕を試すような事をしてきた事がない。  いつだって僕は先生に護られて、僕の不安を排除するように、僕の心を安心へと導く。  これは、僕と先生の大きな違いだった。  だから、僕は自分は酷い奴だと思う。  先生にとって、いい恋人などでは、まるでない。  そんな事を思いながら、僕は先生に求められ、また自分だけが安心を得ていた。  先生に求められる事が、凄く、気持ち良い。  気持ち良すぎて、鼻から声が抜ける。  先生が、僕を確かめるように、慎重に隈無く隅々まで、僕に自分を絡ませてくる。  そんな先生に、僕は僕を丸ごと差し出す。  滑る指が、僕から声を盗んでいく。  僕の全身が、先生の全てに反応する。  頭のてっぺんが、痺れてゆく。  されるがままに、僕は先生の中で先生に弄ばれていると、耳元で苦しそうな、低い声が響いた。 「そんな声出したら、駄目だよ。」  先生が僕の耳に苦しそうに呻いた。  僕はその声と、暖かくじんわりと湿る息に体が痺れて、忠告を守れずに、再び声が僅かに漏れた。 「王子、その声。駄目だよ。我慢・・・・・するのが、難しくなる。」  先生が再び、僕の耳元で呻いた。  息が熱くて、僕の耳や首筋に降りかかり、僕は体を震わせる。 「そんな、こと、あっ・・・、駄目。先生が気持ちよくて、無理、だよ。」  先生の体温が、熱くて熱くて僕は火傷しそうになりながら、先生の息が欲しくて首筋を伸ばした。  先生に擽られて意地悪されて、大声が出てしまった時に何処かのネジが飛んだみたいで、僕は先生に触られると無意識のうちに声が漏れるようになってしまっていた。  今までは、こんなに声を漏らしてはいなかったのに。  先生が僕を刺激すると、細く声が漏れてゆく。 「そんな声で、誘わないで・・・。理性が・・・。」  震える低めの声が、僕の鼓膜を揺らしてくる。  それから、僕の差し出した首筋に、熱いものが触れる。  耳元で、ちゅくっという、水音が、響く。  僕はその合図で、再び喉が開いた。 「駄目っ。・・・駄目だよ。それは。そんな声、反則過ぎる。」  再び、先生がとても苦しそうな声を上げた。  僕は差し出した首筋を逸らし、横から先生の顔を覗き込んだ。  先生の瞳には、たっぷりと今にも雫が溢れそうなほど、涙が浮かべられている。  僕は大きく口を開けて、舌を先生に差し向けた。  乾いた喉を潤すように、先生が僕の中に入り込んでくる。  揺れる顔から、雫がパタパタと、僕の顔に降り注いだ。  僕は先生から注がれる蜜を啜り上げる。  僕は意地悪にも、先生の理性を吹き飛ばしたいと思ってしまっていた。  僕が大人になってからと約束はしたけれど、僕の最優先事項は約束なんかじゃなかった。  いかにして、先生を乱れさせるか、今の僕はそれしか考えていない。  先生は何処まで頑張るつもりなんだろう。  約束を守れたら、それはそれで二人で喜べばいいし、守れなくても僕は嬉しいだけだから僕にとっては何の問題も無いのだ。  そう思っている事を知ってしまって、僕はいかに偽善者ぶっているかという事に気付いてしまった。  けれど、それが、気持ちよくて堪らない。  先生の心を掌握出来ていると思うと、僕の脳髄に快感が貫かれてゆく。  クラクラする程に僕の身体を触られる事よりも、何よりも、先生の心を握っているという快感が、僕の脳髄をエクスタシーに導いてゆく。  だから、先生にはもっと僕に溺れて貰って、もっと苦しんで貰いたい。  そんな感情が、何処からともなく沸き上がってくる事に、恐ろしさを感じた。  けれど、僕はそれ以上に、にやけが止まらない。  先生が僕に苦しめば苦しむ程、僕が満たされてゆく。  だから、僕は先生を誘う事を辞めない。  先生が理性を盾に抗い続ける限り、僕が誘惑を辞める事は無い。  こんなに気持ちいいとは、思っていなかった。  今日、アンに嫉妬している先生を見てしまった。  それがきっと引き金だった。  この優越感は堪らない。  そして、その為に、先生が僕を求めて離そうとしない。  なんて気持ちがいいんだろう。  僕をもっと、もっと、もっと、求めていけばいい。  気持ち良すぎて、また僕から声が漏れた。  あぁ、堪らない。  先生が、苦しそうに涙を浮かべて僕を見下ろしている。  なんて顔をしながら、僕を見つめてくれるんだろう。  苦しそうに歪む顔が、僕を更に快感の海へと誘う。  果たして、溺れているのは先生なのか。  果たして、溺れているのは僕なのか。  堪らなく気持ちいい。 「ずるいな。君は狡い。」  先生が言葉を漏らした後で、僕の耳を甘噛みする。  僕は当然のように、再び声を漏らす。  狡いと言われても僕は気にしない。  きっと先生には今日の僕の行動で、今の反応で、僕が何を考えてるかなんてバレてしまっているからだ。  気持ちいい事をされるから、気持ちいいのだと応えるだけだ。 「何でそんな声を出すんだ。君の今のその声は、きっと今だけのものだ。大人になったらまた違う声を出すのだろう。思春期の今だけのその声で、どうして俺を誘うんだ。」  先生が苦しそうに言葉を綴る。  それを聞いて僕はまた、知ってしまった。  僕には、今だけにしかない僕の魅力がある事を。  大人になったら、今のこの魅力は失われる事を。  思春期特有の、声変わりが始まって、まだ不確かで曖昧な固定されない抑揚のある声だという事を。 「先生。僕の声はきもちいですか。もっと聴きたいと思ってくれますか。」  僕が細く呟くと、先生は答えの代わりに、再び僕の耳を絡め取った。  ぞわそわと先生の舌が耳を走り、水音をしたためて熱く降り注がれると、僕は再び声を漏らした。

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